風船乗り、桂吉朝独演会

foujita2004-10-13


国立演芸場はどうも寄席に向うような胸躍るような道筋ではないのだけど、今日は開演までちょっと時間があったので、演芸場1階の資料展示室の「新収蔵資料展」を見ることができてよかった。ここの展示室はこれ目当てにわざわざ出かけるというほどではないにしても、来たついでにちょろっと見ていくのがいつもたのしく、今回はちょうど歌舞伎の錦絵がいくつか展示してあっのでホクホクだった。明治25年團十郎が出演の『恋女房染分手綱』の絵が嬉しかった。能舞台のところと子別れのところとが同じ図面に描かれていて、ちょっと前に三木竹二の文章を読んでニンマリだったことを絵を見ながら思い出してますますニンマリ。帰宅後、持ち帰った出品目録を眺めてますますたのしい。表紙は明治24年「上野公園風船の図」。五代目菊五郎が風船乗りスペンサーに扮した『風船乗評判高閣』の錦絵が次回展示されるようで、ぜひ見たいなあと思う。『風船乗評判高閣』は脚本を岩波の新日本古典文学大系の明治編の黙阿弥集で読んでたいへん胸躍らせたものだった。読み返したくなってきた。

落語メモ

7月に「かまくら落語会」でたいへん堪能した吉朝さんの独演会が! ということでたいへんたのしみにしていたもの。吉朝さんを3席も聴けた上に、よね吉さんも米平さんもほんわかと面白くて、全編でとてもぜいたくでたのしい時間だった。吉朝さんのたたずまいがなんだかとてもよくて、今日もぽーっと見とれた。

特に嬉しかったのが『宿屋仇』。『宿屋の仇討』は三木助の録音が大好物で、何度も聴いているおなじみの噺だったので、それを関西人ヴァージョンで吉朝さんで聴けたというのがとにかく嬉しかった。三木助だと「魚河岸のしじゅう三人」が吉朝さんだと「兵庫のしじゅう三人」でお伊勢参りの帰り道。三席とも衣裳替えをしていて、『宿屋仇』では黒紋付、お侍が登場する噺にいかにもぴったりだった。兵庫の三人連れがはしゃぐところでお囃子が入って、そのお囃子の音量がだんだん下がっていつのまにか苦りきったお侍の表情になっているくだりが見事で、そんな『宿屋仇』の面白いところのひとつひとつが吉朝さんはとてもよくて、噺にひたりきってしまった。

「しじゅう三人」を43人だと思った旅篭屋の番頭が後に来る人たちのための目印に笠をかけておきましょうかと言う。先日読んでいた近松半二の『伊賀越道中双六』の「沼津」にも目印の笠が登場していたのを思い出して、そんな道中ものの風景がいいなあとしみじみと思った。『伊賀越道中双六』には三十石舟が登場して、落語の『三十石』で覚えた京阪の諺「権兵衛こんにゃくしんどが利」という言葉もどこかで登場していたのだった。落語を聴いたり浄瑠璃を読んだりのそんな諸々のつながりが面白いなあと嬉しかった瞬間だった。

『首提灯』は7月のかまくら落語会でたいへん堪能していたもの。もう1度聴けて嬉しかった。上燗屋と道具屋のところではしみじみと世話物の世界が繰り広げられ、「首提灯」のくだりになると突如シュールな世界へと移行していく、そのポンとした展開がいつも好きだ。