獅子文六の『ちんちん電車』に夢中

出かける前に天気の確認をしようとラジオのスイッチを入れると天気予報の時間は終わってしまっていて、タウン情報のコーナーが始まるところ。野菜とかお魚とか果物の市場の入荷状況や展覧会情報などを流すコーナーで、たまに聞く機会があるとなんとなく得した気分になるのだった。で、本日のお題やいかにと耳をそばだててみると、明治5年に新橋・横浜間で日本初の鉄道列車が開通したことを記念して10月14日は「鉄道の日」と定められているのです、それにちなんで様々な催しが、と交通博物館へレッツゴー、学芸員の方のお話をうかがいましょう、という展開に。日曜日に交通博物館に出かけたばかりだったので、ああ、たのしきかな交通博物館! と朝っぱらからウキウキ。「修学旅行列車なかよし」の車内に座る聞き手と学芸員、椅子の前にテーブルがあるのが独特ですね、これはトランプなどをするために特別に設置されたのですよ、というやりとりがあったりして、「あった、あった」と思い出して、嬉しい。

タウン情報が終了したところでラジオを消して、榮太樓の黒飴をひとつ口のなかに放ってイソイソと外出。コーヒーを飲みながら、獅子文六の『ちんちん電車』を読みふける。新橋・横浜間の日本初の鉄道というのを耳にした直後に目にしたことで、文六先生の少年時代、実家が横浜で三田の寄宿舎に入っていた頃の「明治の東京」といったくだりがさらにじんわり浸透してきて、交通博物館の余韻もあって、ちんちん電車にまつわるあれこれに心躍ってしかたがない。獅子文六の本があればわが世は春、と書いていたのは森茉莉だった。まさしくその通り、わが世は春、と、獅子文六の本を手にする度にいつも思うことをひさびさに思って、嬉しい。

昼休みはお弁当もそこそこに本屋さんへ突進。「栄養と料理」をチェックせねばという一念で突進したのだけど、「栄養と料理」は9日発売なのだった。いつも7日発売だと勘違いしてしまって、毎月7日、昼休みの本屋さんでがっかりしている。いったいいつになったら覚えるのだろう。雑誌売場をあてどなくめぐり、文芸誌各誌の立ち読みにいそしんでいるうちに昼休みが終わる。

天気予報を聞き損ねてしまったせいで傘を持ってくるのを忘れた。雨に濡れつつ、日没後は大学図書館へ。夜道の暗闇を散歩して、この図書館の帰りにいつも寄るコーヒーやさんで本日入手のコピーをチェックしたあとで、『ちんちん電車』を最後まで一気読み。日本橋礼讃の文六先生の一文にうなづくことしきり。ここ数カ月、やたら歩いているので、『ちんちん電車』に出てくる界隈がイキイキと実感できて、とてもよかった。こんなに歩いてばかりいる日常がいつまで続くかはわからないけど、思う存分歩けるだけ歩くとしよう。