最終日の「地下室の古書展」にかけこむ

今日も朝から雨がザアザア。部屋にいてもクサクサするだけだなあと今日も早々に出かけることにする。身支度の時間はピリスのディスクでモーツァルトソナタ K.330。このところ朝の外出の折は榮太楼の黒飴を1粒つまむのが習慣で、今日も口に放ってほんわか嬉しい。黒飴の次は梅ぼ志飴にしようと思う。たのしみたのしみ。と、雨だけど心持ちよく外出。あたたかいカフェオレを飲みながら、都筑道夫の『三重露出』の続きを読む。読みさしだったところを開くと舞台がさっそく湯島天神で嬉しい。天気のよい休日にでもまた男坂と女坂の石段をおりたりあがったりしたいものである。

昼休みは傘をさして本屋さんへ。角川春樹事務所のグルメ文庫の新刊、獅子文六の『わが食いしん坊』を立ち読みすると、やっぱり欲しいなあとムラムラっとなり、しばし惑うものの、なんとか踏みとどまる。新しい文庫本は部屋の文庫本の整理が終わってからにするのだ。と言っているそばから、岩波文庫ディケンズアメリカ紀行』上巻を買ってしまいそうになるが、こちらもなんとか踏みとどまった。

夕刻になると雨があがっていた。やれ嬉しや。神保町に向かってズンズンと早歩きをし、「地下室の古書展」最終日の東京古書会館の地下室に突進。初日の日曜日の夕方のときは、ここ数年来の懸案だった戸板康二の解説付きの講談社江戸川乱歩文庫『黒蜥蜴』が今まで見たどこよりも安かったので購入(300円)、というセコい買い物をしただけで、あとになってたいそう心残りだった。ので、再訪できてとても嬉しかった。

日曜日は呂古書房コーナーでたくさん積んであった「あまカラ」を根こそぎチェックして燃えた。その折、古川緑波の「食書ノート」なる連載が何回か続いているのを発見して「おっ」となっていた。「ロッパ食談」の方はおなじみだったけど「食書ノート」なる連載もあったとは! 読書日記の書き手としての古川ロッパ、に前々から注目している身にとってはささやかな事件だった。「事件」と言いつつも買い損ねていたわけでなんとも痛恨だった。そんなこんなで、今日こそはと残り時間わずかななか、「ロッパの食書ノート」を探せ! とメラメラと燃えて、無事に何冊か発見。今回のところは、「食書ノート」連載第3回の「あまカラ」79号(1958年3月)と第5回の81号(同年5月)を選出。和木清三郎の雑誌「新文明」で連載していた読書ノートでたびたび、ロッパが森田たまの愛読者であることがうかがえて、ますますロッパが好きだ! と思った。「食書ノート」第3回でも森田たまを取り上げている。《森田たまといふ人、衣食住に関する随筆の大家だと、何時も思ふ》というふうに書いている。かのように森田たまを読む、そんなロッパがわたしは大好きだ。第5回では、2年前にとある古書展で深い考えもなく買った、双雅房のアンソロジー『甘味』(昭和16年刊)の紹介があった。ロッパのノートで『甘味』に収録の各界名士のお菓子随筆の初出が、戸板康二が編集部にいた明治製菓の宣伝誌「スヰート」だったということを初めて知って「えー!」と心のなかで大いにどよめいた。たしかに「スヰート」を直訳すると「甘味」だなあと、閉場間際の古書展でホクホク、日曜日にチェックしたときは気づかなかったので再訪できて本当によかった。

とかなんとか、「あまカラ」の古川緑波で燃えてしまったのだけど、長年の懸案、利倉幸一『残滴集』が今まで見たなかで一番安いので(2000円)、ずいぶん迷った。しかし、坪内祐三『極私的東京名所案内』(1890円)の初売りをせっかくなので今日この「地下室の古書展」という場で買いたいのだった。両方買うと、帰りに食料品を買えなくなってしまう。というわけで、今回は坪内さんに決めた。

坪内さんの『極私的東京名所案内』は初出の「彷書月刊」掲載分をすべてコピーしてファイルに綴じて長らく愛読していたので、とても愛着がある。今回やっと一冊の本になって感慨もひとしお。「彷書月刊」の坪内さんの『極私的東京名所案内』のことを知ったときのことは今でもよく覚えている。初めて書肆アクセスを訪れたときのこと、目当ては「彷書月刊」のバックナンバー探索だった。あとでコーヒーを飲みながら買ったばかりの杉浦茂特集号にて初めて坪内さんの『極私的東京名所案内』を見た。そのときに取り上げられていたのが「丸の内 帝劇」だった。それから1年以上たって、早稲田の演博で開催された《よみがえる帝國劇場展》は生涯(たいした人生ではないが)見た展覧会のなかでももっとも印象に残っているもののひとつ(当時の日日雑記:http://www.on.rim.or.jp/~kaf/days/2002-10.html#09)。うーん、なつかしい! と、今回の坪内さんの新刊は極私的にも大ニュースだったので、いつものお念仏「図書館、図書館」が出る余地はなかった。と言いつつ、日曜日のトークショウは聴き損ねてしまい、痛恨であった。

西秋書店コーナーにて昭和29年の「演劇界」、三島由紀夫の『鰯売』の劇評が載っている号を手にとった。閉場間際の「地下室の古書展」はたいそうな収穫だった。