神保町で『廣津和郎 初期文芸評論』を買う。

いつものことではあるけれど一日中力が出ないので、今日も早々に帰ることにする。神保町を通りかかる。ふと思い出して、本の整理用にと、文房堂でグラシン紙10枚と透明セロファン10メートルを買う。計549円。片手に筒状のものを持つこととなり、落ち着いて本は見られそうもなかったので、早々に帰るとするかなと思いつつ、ふと通りがかりの古本屋に足を踏み入れる。適当に棚を眺めていると、隅の方に『廣津和郎 初期文芸評論』の文字を発見! ワオ! と、値札を確認すると1000円なので、もう迷わず買う。

『廣津和郎 初期文芸評論 ―洪水以後時代・作者の感想―』(講談社、昭和40年)は「群像」に『続年月のあしおと』連載中に刊行されたもので、その副題の通りに、「洪水以後」に文芸時評を書くことでまずは文芸批評家として世に出た広津和郎による当時の文章と、『作者の感想』(大正9年)を全文翻刻したものを収録している。野口冨士男が、広津和郎の作品のなかでもっとも好きなものを3つ選ぶとすれば(優劣論ではなく好きという一点にしぼれば、という条件で)、『作者の感想』(「怒れるトルストイ」と「志賀直哉論」)と『同時代の作家たち』と『年月のあしおと』だというふうに書いていて、佐藤春夫の『退屈読本』と合わせて『作者の感想』は大正期の文芸批評の白眉だ、というようなことをあちこちの記述で目にし、『退屈読本』は長年の愛読書であることだし広津和郎の『作者の感想』も手元においておきたいなあと思ったものだった。早くも念願かなって、大喜び。『廣津和郎 初期文芸評論』は意外にも図書館に入っていなくて、京橋図書館ではボロボロの『作者の感想』聚英閣初版を借り出したものだった。

そんなこんなで、わーいわーいと帰宅し、本の整理をさぼって、さっそく『廣津和郎 初期文芸評論』を繰る。ひさしぶりに、ウィスキー入り紅茶を飲んだ。