露伴の井原西鶴と千恵蔵の立花左近に胸を熱くする。

テクテクと歩いて外出、喫茶店でコーヒーを飲む。図書館での返却期限が迫っている原武史著『「民都」大阪対「帝都」』(講談社選書メチエ)を無理やり読了。元旦早々に「なんと壮観な」と圧倒された阪急の梅田駅のホームのことを思い出して、ぼんやり。そんな今年も早くも4月、季節の変化についていけないなあと肩をおとす。気を取り直して、『江戸人物読本 井原西鶴』(ぺりかん社)を取り出す。明治23年筆の幸田露伴による一文「井原西鶴」を読んで陶然、ひたすらうっとり。何度読んでも、なんとすばらしい一文だろうといつも感嘆の一言なのだった。この文章にさらに共鳴するためにも、もっと西鶴を読み込みたいものだなあと、上の方を向いて目に炎がメラメラとなっているうちに、時間になる。


夕刻、逃げるようにして外に出て、イソイソと鍛冶橋通りをゆく。明治屋の京橋ストアーでワインの下見をしたあと、《シナリオ作家 新藤兼人》特集開催中のフィルムセンターへ足を踏み入れる。松田定次監督『赤穗浪士 天の巻 地の巻』(東映京都・昭和31年)を見る。「忠臣蔵」といえば歌舞伎と文楽の『仮名手本忠臣蔵』で、時代劇の忠臣蔵はテレビ・映画を問わずまったく見たことがなかった。去年9月にフィルムセンターで尾上松之助の映画を見る機会があって、そのときに見たのが初の「時代劇の忠臣蔵」であった。「資料」を見るつもりで出かけたのが、「映画」としての進化具合を見るのがなかなかおもしろかった(2種類の忠臣蔵映画が上映されていた)。戸板康二も、初めて見た時代劇の忠臣蔵は少年時代に見た尾上松之助の映画だった、というようなことを書いていたので(たしか)、わたしもこれを機に遅ればせながら「時代劇の忠臣蔵」をいろいろ見てみるとするかなと当時ほのかに思ったのだったけど、数カ月後にようやく二本目が実現。そんなこんなで、わーいとすべてを投げ打って、フィルムセンターにやってきた次第だった。

などと、前置きが長いけれども、「東映創立5周年記念のオールスター大作」の『赤穗浪士』、じんわりじんわりとずいぶん満喫。月形龍之介の吉良、最高! そして圧巻は千恵蔵の立花左近と右太衛門の大石内蔵助の対面場面。時代劇の忠臣蔵は初めてなので「立花左近」なる役を見たのも初めてだったのだけど、つまりこれは「勧進帳」なんだなと、クーッと大興奮だった。などなど、映画全編をいろどるいろいろな時代劇的定石に大喜び。これから時代劇の忠臣蔵をいろいろ見たいものだなあと上を向いて目には炎がメラメラ、そしていつまでも胸のうちには「立花左近ッ!」と興奮しながら外に出ると、空気がずいぶんひんやり、夜空の下、今日もアサヒペンがまわっている。