上司小剣のことで頭がいっぱいになる。

そんなに早く起きる必要もないと思うのだけど、今日も早起き。ハイドン弦楽四重奏を聴きながら身支度。時間たっぷりなので雨が降らない今のうちにと、歩いて出かけることにする。が、歩を進めるにしたがって、雨がパラパラと降ってきた。はじめは無視していたけど、どうにもこうにも無視しきれないのであきらめて傘を広げたところで、地下鉄の入り口が視界に入ってきた。そのまま吸い込まれるように地下へとくだって、電車に乗った。ふたたび地上に出ると、雨など降っておらず、ツンとした冷気は頬に心地よい。せっかく早くたどり着いたことだしと、これ幸いと、ゆるりとコーヒーを飲んでゆくことにする。上司小剣『鱧の皮』(岩波文庫)所収の短篇を次から次へと、じっくりと読む。上司小剣のことで頭がいっぱいになる。そして、宇野浩二の解説がまた実にいいのだった。宇野浩二が挙げている『膳』という名の短篇を読みたいものだと思う。一緒に持参していた、「明治文学全集」の端本、『水野葉舟 中村星湖 三島霜川 上司小剣集』を繰り始めたところで、時間になった。

日中は天候不安定だったけど、次第に穏やかになり、夕刻に外に出てみるとツンとした冷気が気持ちよい。冷気よ、まだ去っていなかったかと、嬉しい。不忍池の鴨とともにそろそろ冷気も去ってしまうのだ、名残惜しいなあ、ま、今のうちに心ゆくまで冷気を満喫しておこう、というようなことを思いながら、今日もマロニエ通りをゆく。胸のなかにはフツフツと神吉拓郎が…と、書店での発見を待ちきれずに昨日思わず予約してしまった神吉拓郎著『或る日のエノケン』(新しい芸能研究室、1994年)を借りる。

夜、ミルクティを飲む。神吉拓郎の『或る日のエノケン』、いざ繰ってみると、なんとも素敵な体裁の、未発表のエッセイを収録している、すなわち遺稿集なのだった。読んでいくうちに胸のうちに湧き上がるパッションを抑えることができず、パッと電源を入れてネット探索、安く売っているのを見つけて、さっそく『或る日のエノケン』を注文。

朝の「明治文学全集」の続きを読んで、そのあと、谷崎精二の『都市風景』を読み続ける。