アキ・カウリスマキと熊谷守一

foujita2003-12-13


ちょいと早起きして池袋へ。何度も見逃していたアキ・カウリスマキの『過去のない男』をやっと見ることができた。いい映画だった。にこりともしない人々の醸し出すおかしみ、いつものアキ・カウリスマキぶりをひさびさに堪能。ラストの二人はのちに『浮き雲』のふたりにみたいになるんじゃないかなといったような、アキ・カウリスマキ全体の通奏低音がたまらなく好きだ。

映画のあとは池袋で軽い買い物をして、それから、熊谷守一美術館へ向かってテクテク歩いた。とてもよいお天気でもってこいの散歩日和だった。池袋の駅から立教大学の前を通ってひたすら直進して熊谷守一美術館へと向かう道筋は、2年前にこの美術館へ行ったときに初めて歩いた道。池袋周辺になじみがなかったので全然知らなかったのだけれども、このあたりの道がそこはかとなく気に入っている。近くに大学があるせいなのか散見される店鋪の感じもなかなかよくて、立教を離れても、ちょっとした古ぼけた建築がなんだかいい感じで、池袋も駅からちょっと離れるととたんに雰囲気がよくなる。洲之内徹の書物に親しむようになって、『池袋モンパルナス』という本を読もうとずっと思っているのだけれども、いまだに入手していない。

春先に訪れて以来の熊谷守一美術館。今日も展示室に長居。生前の熊谷守一のことを知っている方と居合わせて、絵に関していろいろ教えていただいた。ふだんはこういう場所で未知の人と会話をするのにはどうしても居心地が悪い心持ちになってしまうので、たまに例外的にたのしくお話を伺えたりすると、なんだかとても嬉しい。熊谷守一の額縁はほとんどが直線のシンプルなものになっていてそれがいかにも似つかわしくなっている、フランスでは「クマガイブチ」という言葉が画商の間で定着しているほど。ついハッとしてしまう絵の代表格、長女の死の際に描かれた卵が3つの『仏前』という絵はだいぶ派手な額縁になっていて、これは海外で勝手につけられてしまったのだそう。『桜』に描かれている山桜と鳥との季節感、などなど、気づかなかったことをいろいろ知ることができて面白かった。お話を伺って、『朝日』という絵を猛烈に見たくなった。

前に「四月と十月」の記事にあった、求龍堂より今年刊行の『熊谷守一油彩画全作品集』、ぜひとも見てみたいなアと思う。それにしても、熊谷守一全体がすばらしい。こういう人がいるのだから世の中なかなか捨てたものじゃない、というような、なんだかいつもここにくると生きる歓びといようなものを感じる。この感覚、うまく説明できないけれども。今日は喫茶コーナーには寄らず、ポストカードセットを買って美術館を出た。そのあとはまたテクテク歩き続けて、西武線椎名町を越えて目白通りに至る。ひさびさに目白を歩いていい気分。通りがかりのコーヒー店に長居した土曜日の午後だった。


映画メモ

展覧会メモ