岩波現代文庫の『歌舞伎への招待』

foujita2004-01-18


午後、近所でのんびりと買い出しをしているうちに、ムラムラと神保町へ行きたくなって、突発的に神保町へ出かけた。岩波現代文庫の『歌舞伎への招待』、発売日の金曜日は本屋さんに行かれなかったので、明日にでも教文館で買おうと思っていたのだったけれども、やっぱり早く買いたくなってしまった。今年初めての神保町。まずは東京堂へ行って、喫茶店でコーヒーを飲んで、とっぷりと日が暮れて、文房堂で買い物してから帰宅。冬の空気がツンと冴えていて、この季節の日没の時間が好きだ。確実に日が長くなって春が近づいている。

文庫本コーナーに近づくにつれて急にドキドキしてきて、ソロリソロリと岩波文庫の棚に近づいた。長らくの夢だった『歌舞伎への招待』文庫化を目の当たりにして、とにかくジーン。喫茶店でまずは山川静夫さんの解説を読んで、そのあと全体をペラペラとめくった。この岩波現代文庫、思っていた以上にすばらしい出来栄えで言うことなしという感じだった。とにかく、これはすごい!

何がスゴイのかというと、戸板さんの文章だけではなくて、昭和25年の初版の図版がすべて元の通りにきちんと収録されているところがすごい。巻頭の写真も文中の写真もすべて収録されていて、昭和25年の初版の気分のままで『歌舞伎への招待』を読むことができる。六代目菊五郎が死んで1年もたっていない時期に刊行されたこの本、戸板さんの劇評家としての立ち位置のようなものが生々しく体感できる気がする。などという能書きを抜きにしても、この本、図版に添えられているちょっとした文章がまた絶妙だったりするのだ。

暮しの手帖」では昭和23年の創刊号から毎号戸板さんの「歌舞伎ダイジェスト」という連載があり、連載とは別に花森安治のすすめで書き下ろされたのが『歌舞伎への招待』正続、続も来月に岩波現代文庫として刊行される。
わたしの戸板康二読みはここから始まって、歌舞伎見物もここから始まった。もうかれこれ5年になるのだけれども、今日買ってさっそく喫茶店で落ち着いてじっくりと読み返してみると、わたしの芝居見物は、『歌舞伎への招待』を初めて読んだ当時から全然進んでいないということがよくわかった。わたしの戸板康二読みだって実はあまり深まっていないような気がする。と、神妙になって帰宅した。

年末に神保町に行ったのは29日、神保町年内最後の営業日という感じで大にぎわいだった。土曜日の午後しか行く機会のない古本屋さんをひさしぶりに見たりして、とても楽しかった。この『小沢昭一百景3』は年末の東京堂の新刊台で見かけた。けれども、年明けのたのしみにとっておこうと思ってその日は購入を見送ったのだった。と、そんなわけで、今日手にすることになったのだけれども、「小沢昭一百景」シリーズのなかでも特にたのしい1冊になっているような気がする。わたしが小沢昭一に本格的に尊敬のまなざしを向けるきっかけになったのが川島雄三で、『川島雄三、サヨナラだけが人生だ』という本に夢中になったのがきっかけだったかと思う。それから、戸板さんも参加していた「東京やなぎ句会」の人物誌に感激したり、落語に夢中になったりしたことでますます助長していった。と、そんな感じのつながりが『慕いつづけたひとの名は』を読みふけることで鮮やかに味わった気がした。戸板康二に関する文章が2つきちんと収録されていたのも嬉しい。正岡容郡司正勝などなど、本格的に読んでみたいなあと刺激もたっぷり。小沢昭一そのものをもっと追求したいのはもちろんのこと。