教文館にて

前々から、寄席でのんびりしたいな、阿佐ヶ谷でジャン・ルノワールの『フレンチカンカン』を見て(何度目になるのだろう)今年の映画の幕開けを飾りたいな、などなど、いろいろ寄り道計画を練っていたのだけれども、例によって、当日になってみると、「くたぶれた、くたぶれた」と寄り道する気力も体力も残っていなくて、ぼーっと外に出た。このまま家に帰るのもあまりに味気ないので、せめて教文館に出でてみんとテクテクと力なく歩いて、やっとのことで教文館の2階にたどりついた。

教文館にたどりついてみると、急にテンションがあがって、あちこち立ち読み。そんな折、金井美恵子のエッセイ集を立ち読みしていたら、石井桃子の『べんけいとおとみさん』というタイトルが目にとまった。タイトルだけで急にどんなお話なのか読んでみたくなって、京橋図書館へ借りに行こう! と急に思いついて店を出ようとしたそのとき、ふと新刊台を眺めてみると、洲之内徹の新刊があるので、びっくり。ガバッと手にとって、そのままレジに直行。教文館を出たあとは京橋図書館へ直行、帰りの電車のなかでさっそく『べんけいとおとみさん』を読んで和んだ。

既存の「気まぐれ美術館」は「芸術新潮」に掲載のものだけを収録しているから、この本はその補遺集ということになるのかな、1962年に愛媛新聞に連載していた「気まぐれ美術館」、1970年代に「アルプ」(ワオ!)に連載していた「山のとびら」等を収録している。「新聞版 気まぐれ美術館」の方はすでに読んでいる「気まぐれ美術館」と扱っているものは重なるけれども、それだからこそ、美しいカラー図版が満載のこの本、洲之内ファンにとってはたいへん嬉しい1冊。折に触れ読みふけっている「気まぐれ美術館」シリーズ、この1冊を機にまたもた再読の機会をもつことになるのは確実。装幀は「気まぐれ美術館」でおなじみの松田正平、カバー裏の挿画の線の感じがいいなア。

部屋に帰って、音楽聴きながら、ペラペラめくって、ふつふつと嬉しい。冒頭の長谷川りん二郎の「薔薇」の絵のところで、さっそくびっくりのくだりがあった。この「薔薇」の絵、戸板康二が戦前編集に携わっていた、明治製菓のPR誌「スヰート」の表紙画だったとのこと、昭和13年だから戸板さん在籍時代ではないけれども、「スヰート」編集部に長谷川海太郎がちょろっと絡んでくるのを、戸板さんの回想集『思い出す顔』にあったのを「あっ!」と思い出して、ちょっと興奮だった。