趣味展

foujita2004-11-27


2カ月前にとてもよい買い物ができた思い出の趣味展であったので(id:foujita:20040925)、味をしめて、次回開催はいつかしらと前々から手帳に大きく「趣味展」とメモしていた。というわけで、予定通り早起きに成功、天気も快晴で万事快調、意気揚々と自転車を走らせた。いつもはたいていなにがしかのシンフォニーなのだけれど、本日のイヤホンは『娘道成寺』の長唄。花笠の「あやめ杜若は…」のくだりになったところで東京古書会館に到着した。このところ就寝前は道成寺ばかりを聴いていたのだけれどいつもクドキの前で寝てしまっていた。今日も「恋の手習い」が聴けなかった。「驚愕」ということはなかったけれど、そもそもの目的だった演劇雑誌を安く何冊も仕入れることができたので、今回の「趣味展」も大成功。喫茶店でコーヒーを飲んでしみじみくつろいだあと、土曜日にしか見ることができない古本屋さんに足を踏み入れていろいろ偵察して、土曜日の神保町っていいなあ! と上機嫌になったあと、ふたたび自転車を走らせて『娘道成寺』を聴いた。

以下、東京古書会館の趣味展でのお買い物メモ。

購入本

いかにも古書展らしい、300円か500円での買い物。森まゆみさんの本は一度図書館で借りて読んでいる。いろいろな雑誌や新聞に発表された書評を中心に編んだ文章集で、いかにも晶文社に似つかわしくて、こういう本は大好き。新刊で買う機会を逸して図書館で読んで、こうやってぽろっと古書展で再会してまた読める、というのが嬉しい。小島政二郎は前々から読んでみたいと思いつつ、古本屋でちょくちょく目にするにもかかわらず、今までずっと機会を逸していた。あまたある久保田万太郎に関する文章でもっとも面白く読んだのが『鴎外荷風万太郎』だと、矢野誠一さんが『戸板康二の歳月』で書いていたのだった。小島政二郎の万太郎に関する文章というと、永井龍男が激怒したという挿話が有名。鎌倉で車に乗っているとき車窓から路上を歩く小島政二郎を見て「轢いちゃえ轢いちゃえ」と同乗の編集者に冗談まじりに言っていたというのを読んだことがある。そんな永井龍男がわたしは好きだ。

野上豊一郎の本は初めて見たもの。装本がなかなか洒落ていて、装幀者をチェックすると著者自装だった。岩波文庫野上弥生子さんの『欧米の旅』の参考資料になるかしらと、値段は安いしで、軽い気持ちで手にとった。江戸人物読本は東京堂幸田露伴の文章を以前立ち読みしたことがある。こちらも、値段は安いしで、よい機会。と、いかにも古書展の気まぐれ買い物であった。


雑誌では、

三田文学」の系譜に興味津々の身としては、創刊以来いくつかの時期に区分される、それぞれのバックナンバーを手元に置いておきたいと思っているのだった。この時期の「三田文学」は第3次で、版元は丸岡明の能楽書林、発行者として奥野信太郎の名前がクレジットされている。この号は猪熊弦一郎の表紙が素敵。猪熊弦一郎は美術館にあるような作品はあまり好みではないのだけれど、挿絵や装幀はいつも好きだ。表紙を開いて扉のカットは清水崑による永井荷風で、目次のカットは脇田和、と、なかなか素敵な誌面で、この号では戸板さんが風俗時評を書いている。

と、「早稲田文学」も同時に入手。《南北と黙阿弥》特集で、坪内逍遥「四世鶴屋南北伝」、岡本綺堂「黙阿弥の世話物三十種」、渥美清太郎「南北以後、黙阿弥以前」などなど、顔ぶれがたまらない。「早稲田文学」はこの《南北と黙阿弥》と、《近松之研究》と《草双紙》とを3冊合本した立派な本が結構高価な値段で売っているのを見たことがある(たしか)。《近松之研究》もいつか入手してじっくり読めればいいなあと思うのだった。饗庭篁村『竹の屋劇評集』の広告が載っていて「明治演劇側面史ともいうべき貴重なる研究資料!!」というふうに書いてあった。

  • 演劇雑誌各種

主に200円で、戸板さんが編集していた「日本演劇」を今回も月の輪書林で1冊と、最近急に感激していた、野口達二編集の季刊雑誌「歌舞伎」を4冊。あとは、大正の「演芸画報」を2冊。

と、いずれもとても嬉しい買い物だったけど、とりわけ嬉しかったのが、「演劇新潮」大正13年2月号。何年も前からずっと「演劇新潮」に興味津々だったのだけれど、図書館で閲覧ということはしていなかったので手にとったのは今回が初めて。垢抜けした洒落た誌面にはあっと驚くばかり。いかにも戸板さんが好きそうだなあと思いつつ、喫茶店で繰っていたら、『演芸画報・人物誌』で戸板康二が紹介していた、藤沢清造の「重忠役者と岩永役者」という文章が載っていてびっくり。うーむ、このところ、あちこちで藤沢清造にぶちあたる。

などなど、「戸板康二資料」の演劇雑誌を何冊か手に入れるというのが趣味展の一番の目的だったので、今回も見事に達成できて嬉しかった。