休日日記

正午に吉祥寺で待ち合わせ。本日の車中の読書は「BOOKISH」第8号《画家のポルトレ》。せっかくのよいお天気なのでお昼ご飯を買って井の頭公園へ。ひさびさに来てみると、池にはたくさんの鴨がスイスイ移動している。枯れ葉を踏みながら木々の下を歩くのがとても気持ちよい。この季節の、真冬よりはちょっと前の晩秋の終りごろの公園が好きだ。コーヒーを飲んだあと井の頭線に乗って駒場へ。東大構内の美術館で一高の展覧会を見たあと界隈を散歩、駒場公園でのんびりしたあと民芸館を見物。池ノ上までテクテク歩いて、線路沿いの細い道をジャリジャリと歩いて下北沢へ。三木のり平の映画を2本見て帰宅。ピクニック満喫の日曜日だった。

展覧会メモ

東大駒場の美術博物館を見物するのは今回が初めて。日曜日の閑散とした大学構内、見物人はほかにいなくて、天井の高い風格ある館内をぐるっとひと回りして気分上々だった。マニアックな展示の数々が味わい深い展覧会だった。2階には理科の実験道具が! 唯一親しみの湧くところは、明治36年から退職前年の明治39年までの漱石資料。あとびっくりだったのが、数学教師・数藤斧三郎の肖像画。モデル名と比べると表示がえらく小さかったのだけれど、画家はなんと中村彝! これが一目見ただけでいかにも中村彝の絵の具づかいで、キラキラとまぶしくて、ちょっとウルウルしてきた。大正9年の作品なのだそう。この絵を見ただけでもこの展覧会に足を運んだ甲斐があったというものだった(http://www.um.u-tokyo.ac.jp/real/tokubetsu/hakase/)。隣にあった小島憲之肖像画は岡田三郎助で、思いがけない絵を見られたのが嬉しかった。

と、日本民芸館のついでに見物した東大の美術博物館は中村彝が眼福だった。美術館ニュースのバックナンバーに去年に開催されていたロラン・バルトのデッサン展に関する文章があって嬉々と持ち帰った。日本民芸館ではいつもの通り、椅子に座ったりしてのんびりと見物。バーナード・リーチの素描がいつも好きだなあと思う。1階では民芸の全国の会員の展示即売をやっていて、あ、このカゴいいなと思ったら売約済み、といったことを何度かしつつ、こちらもたのしく見物。今日の民芸館はひときわ混雑していた。東大の美術博物館と合わせて、建物の空間そのものが嬉しい展覧会見物で、周囲の木々にも大いに和んだ。

映画メモ

2本ともなんとも嬉しい映画。『のり平のパーッといきましょう』を読んだばかりというタイミングだったのでますます気持ちが盛り上がる。各映画の前に桃屋のコマーシャルが3本入るという粋な計らいがあって、大喜びだった。三木のり平桃屋のコマーシャルは今でも続いているのだそうで(ここ2年以上テレビをまったく見ていないので知らなんだ)、いいなあ、いつまでも続いてほしいものだと思う。

今回の特集で一番たのしみにしていた映画。なんと古今亭志ん朝出演! なのだからたまらない。志ん朝さんと三木のり平の共演映画は去年にフィルムセンターで見た『大日本スリ軍団』に続いて2度目。『大日本スリ軍団』では前半にちょろっと登場しただけだったけど、今回は最後まで大活躍していてホクホクだった。最後の「めでたしめでたし」の展開のところを若き志ん朝の高座でたどるという、なんとも至福な映画であった。監督は前田陽一なのだけれど、三百人劇場では上映されていたのかな、見逃していたとしたらとんだドジであった。ストーリーはどうってことのないといってしまえばそれまでの予定調和の喜劇。倍賞美津子がとてもかわいかった。小津映画における笠智衆原節子のような、妻を失ったお父さんと家事を切り盛りする娘の二人暮し、娘の縁談をどうする、みたいな、日本映画の系譜を思った。チラシの紹介文の「葬式名人」のくだりは戸板康二の小説『いえの芸』のようで、見る前はとても胸を躍らせていたけれど、実際に見てみるとそれほどではなくて、志ん朝のよろこびに終始しつつも、これだけでも十分嬉しい、というような映画だった。

3本見た本特集で一番おもしろかった映画。ああ、もう、こんな映画が大好きだ。菊田一夫の名作、「日本の喜劇人」総出演というおもむきの至福の映画であった。ちょろっと核時代を諷刺しているようなところに時代を感じた。スクリーンにひたりきっているうちにあっという間に終わってしまったので、見逃したところ多々あり、のような気がする。もう一度見たい。