休日日記:松濤美術館と一箱古本市

本日も快晴なり。

お昼前に意気揚々と外出、渋谷駅で下車して、松濤美術館へ向かってテクテク歩いた。松濤美術館は来る度に嬉しい美術館で、計画通りに来ることができるとそれだけでよかったよかったと思う。最近では安井仲治の写真展を行き損ねたのが痛恨であった。今日は梅原龍三郎の展覧会。お昼前の館内はいい具合に見物人が集っていて、地下と2階の2フロアの展示をのんびりとめぐって、たいへん満喫。思っていた以上に面白くて、外に出るときはたいそう上機嫌、ついはしゃいでしまって、青い空の下、あれこれと寄り道。

そんなこんなで、たいそうくたびれて、たどり着いたのは明治神宮前駅。千代田線に揺られてトロトロと、不忍ブックストリートhttp://yanesen.org/groups/sbs/)目指して、谷根千界隈へ。と、ここまではクタクタだったのが、ひとたび根津の地上にあがると急にハイ。「一箱古本市http://yanesen.org/groups/sbs/1hako)」だ、わーいわーいと、まずはまっさきに森茉莉街道をゆくhttp://blog.livedoor.jp/chiwami403/)のちわみさん出店のオヨヨ書林前に小走りで突進なのだった。オヨヨ書林が視界に入ってくると、文字どおりの黒山の人だかりで、遠目からもいかにも盛況な様子、こちらで「不忍ブックストリート MAP」と一箱古本市のスタンプラリーの用紙を受け取って、さらにハイ。「スタンプを12コ集めてプレゼントをもらおう〜」と用紙片手にメラメラと燃えて、怒濤の勢いで次々と「一箱古本市」をめぐった。ああ、たのしかった。

最終地の古書ほうろうで景品のマッチを受け取って、フツフツと嬉しい。よい気分で家路について、夜は、5月になる前にいいかげんなんとかしないといけない、というような諸々の作業にいそしんだ。「一箱古本市」のマッチと一緒に、アラジンのストーブを物置きにしまった。

展覧会メモ

タイトルの通りに、梅原龍三郎の作品を見ながら、その合間合間に彼の愛蔵品が展示されているという仕掛けの展覧会。これがとても面白かった。順路は地下の展示室からで、はじまりは梅原の自画像。 "1908-1977" という年号とともに、パリに留学して印象派に傾倒した最初期の自画像と、晩年の日本画風の自画像とをいくつか対比するようにして見ることができる。一人の画家の変遷をたどるという展示はそれだけでとても興味深いものだけれども、今回の展覧会は、その変遷の背後にある梅原の愛蔵品を一緒に見るわけだから、なんともぜいたくなもの。現在は東京国立近代博物館所蔵で旧梅原蔵のルノワールの彫刻が自画像と一緒に展示されていたりする。その彫刻は、梅原の自画像のなかにも描かれているのとおなじものなのだからたまらない、ワオ! と胸が躍った。ルノワールのブロンズはほかにも何点か見ることができて、梅原の作品を交えて追って見てゆくうちに、これらのブロンズは画題として、だけでなく、梅原にとって造形探索としても利用されていたということがおのずとわかってくるのだった。

晩年の造形と愛蔵品として、「デトランプ」が紹介される。発色は日本画的で筆触は水彩画的だという。これに梅原は金を加える。油彩にデトランプ、金に羊皮紙を織り交ぜたコラージュ風絵画がよかった。造形とか線とか色とか質感、といった、絵画そのものの面白さに思いが及んで、実にたのしかった。梅原の愛蔵品として展示されているものに、源氏物語の屏風絵、大津絵、富岡鉄斎、マジョリカ陶器といったものがあり、それぞれにとても面白かった。ルノワールの彫刻と同じように、画題としてだけでなく造形探索のきっかけとしての陶器、というのになるほどなあと思った。壷の文様と絵画、文様化した絵画といったくだりがよかった。興味深かったのが、「京の大尽」としての出自。衣裳道楽と金地に映える色使いが梅原を喜ばしたに違いない、「誰が袖図屏風」の展示が嬉しかった。

2階の展示室ではずらっと梅原の蒐集品、「大らかで豊かな色彩にあふれ、単純でありながらも本質を捉えた造形」というふうに「梅原的」を定義づけている。そんな「梅原的」の展示の数々がたいそう面白かった。

ところで、わたしにとってもっともなじみの深い梅原龍三郎は、岩波ブックセンターのカヴァー。

一箱古本市にて

めぐっているこちらもずいぶんたのしかったけれども、本を売っている人々がみんなとても楽しそうなのだった。と、「一箱古本市」に参加している人々全員が実にたのしそう。そのことでおのずといい空気が醸成されていて、なんて素敵な気持ちのよいことだろう! と、居合わせるだけでちょろっと通りかかっただけで、嬉しくなってくる「不忍ブックストリート」めぐりであった。とにかくも、発起人の南陀楼綾繁さんにひたすら拍手。

スタンプラリー風に「一箱古本市」開催の12のスポットを次々にめぐることで、「谷根千」入門的なたのしさがあったのがまずとてもよかった。「スタンプを12コ集めてプレゼントをもらおう〜」とめぐっているうちに、本と町と人とが一体化しているというか、本を通して人と接し町並みに触れるということを体感することとなる。なるほどなるほど「一箱古本市」とはこういうことだったのかと、目から鱗だった。谷根千界隈には今までそれほどはなじみがなくて、たまにピンポイント的に訪れるくらいだったから、スタンプラリーをすることで「不忍ブックストリート」片手におのぼりさんをきめこんで、じっくりと歩けたのがよかった。オヨヨ書林で始まって、次々に訪れたお店がそれぞれにとても素敵で到着するごとに見とれっぱなし、しかし「スタンプを12コ集めてプレゼントをもらおう〜」だったから、箱を見たあとにすぐに次なる目的地へ急がねばならないので、あまりゆっくりはできず、そんなこんなで、またあらためて、「不忍ブックストリート」散歩をしようと未来展望がフツフツと沸いてくる。「不忍ブックストリート MAP」があるから鬼に金棒。

といったような、イヴェント的にたのしい、というだけでなく、「一箱古本市」ではなかなか味な買い物ができて、ショッピング的にもいうことなし。「一箱古本市」の底力を見せつけられた思いであった。

  • 安田武『昭和 東京 私史』(中公文庫、昭和62年)


  • 山田稔『スカトロジア』(福武文庫、1991年)