奥村、歌舞伎座、教文館

朝はちょいと出るのが遅かったけどコーヒーは飲む。ディケンズの『ピクウィック・クラブ』の続きを少し読む。日没と同時に歌舞伎座に向かって突進するも、そうそう、昨日買い損ねた講談社文芸文庫やいかにと、新生堂奥村に寄り道。目当ての瀧井孝作『無限抱擁』と多和田葉子『ゴットハルト鉄道』が無事に棚にあって、よかったよかった。価格としてはちょうど瀧井孝作を買ったら多和田葉子がついてきた、という感覚、フツフツと嬉しい。

玉三郎が人形振りをするという『日高川入相花王』にも間に合わなくはないのだけど、本日の歌舞伎座はおしまいの『河庄』だけにして、それまでのんびり買った本を眺めつつひと休みしたい心境になってしまい、しばし迷う。うーむ、どうしたものだろう。玉三郎の舞踊、というのは、実は現代歌舞伎におけるわたくしの三大苦手のひとつなのだった(あとの2つは内緒、って他に5つくらいありそうだけど)。しかし、菊之助が出るのでやはり見ておこうと改心し、ふたたび歌舞伎座に突進。なんとか間に合った。

結局玉三郎の舞踊への苦手意識が払拭されることはなかったのだけれども、『河庄』と合わせて『日高川入相花王』を見たのはなかなか興味深かったという気もした。『鴈治郎芸談』にあった、義太夫以外に音楽の入らない『河庄』というくだりをふと思い出して、義太夫節と歌舞伎、ということを思ったのだった。義太夫劇でありながら台詞劇であるところの『河庄』は2年前に見たときはあんまりなじめなかったのだけれども、今回はモクモクとたいへん興味深く、しかし一筋縄ではいかないのはあいかわらずで、ぜひとも見直さねばならぬ。それにしても、最後の3人で絵になるところが無類だった。雀右衛門の風情というか、身体全体が発するオーラがもうなんといったらいいのか…、ぜひとも見直しておかねば。

とかなんとか、まとまらない感想のまま外に出ると、傘をさすほどではない小雨がポツポツと。思っていたより早くハネたので教文館に寄り道。ふと『本間久雄日記』が目に入って、ふらりと立ち読みを開始して突然夢中。古書肆をめぐり歌舞伎を満喫する昭和30年代後半の本間先生の日々、尾崎宏次とか渥美清太郎の名前は登場しているけど、戸板康二の名前は発見ならず。人名索引が完備されていたら完璧だったのに。うーん、でも欲しいッとモンモンとなりつつも、こんなときはいつものお念仏をと、「図書館、図書館」と心の中でつぶやいて外に出る。

立ち読みに熱中して疲れたので今日は地下鉄で帰る。このところずっと歩いて帰っていたので電車だとずいぶん早く着くものだなあと素朴な感動で機嫌よく帰宅。「地下室の古書展」の目録が届いていたので、大急ぎで家事をかたづけて、寝床で眺めようとするも、今日は吸い込まれるように寝てしまった。