奥村で戸板康二を買う、双雅房の『甘味』を買いなおす

あたたかくておだやかな晩秋の1日が終わって、心持ちよくマロニエ通りを歩いて、伊東屋でとある書斎道具を仕入れたあと、奥村書店に足を踏み入れた。まっさきに俳句コーナーを眺めて、戸板康二の『季題体験』と『句会で会った人』が今週も2冊並んでいるのをみて、実にいい眺めだなあと気分上々。くるっとうしろを向いて、澤村三木男『東京のおんな』が目に入ったので、函から取り出してしばし立ち読み。この本、しじゅう見かけてそのたびにいつか買いたいものだと思いつつ、なぜだかずっと機会を逸している。往年の文春ファンにとってはたまらない感じだし、今日も立ち読みして久保田万太郎や伊藤熹朔や「九九九会」という字面だけでもクラクラ、箱入り帯付の風格ある姿で1000円と値段もお手ごろなのに、まだまだ機が熟さないのだった。いったい、いつになったら買えるのだろう。と、『東京のおんな』を棚に戻した直後、戸板康二の著書がずらっと並んでいるのが目に入って、「キャー!」ととにかくも大興奮、動悸息切れまでしてきた。はあはあ…。『東京のおんな』を立ち読みしている場合ではなかった。

実はつい先日、id:kanetaku さんから松屋裏の奥村に戸板康二の著書がずらっと並んでいるとの伝聞情報をいただいて以来、詳細やいかにと、そこはかとなく気になっていたのだったのだけれども、これが噂の戸板本大放出の真相であった。とにかくも、キャー! と、いつまでも大騒ぎ(心のなかで)。わたしのなかでは長らく幻だった、中村雅楽シリーズの『ラッキー・シート』が売っている! 1500円で! 長らく未入手でやっと今年の夏に聖智文庫さんで購入した『第三の演出者』が売っている。函帯で1000円! 安過ぎ! すでに持っている『いえの芸』は森岩雄宛の献呈署名つき、2000円! ……などと、いちいち書いているとキリがない。「!」をいくら連発してもし足りないという、戸板ファンにとってはこれほどの興奮は何年ぶりかしら、といったところであった。これほどの興奮をふたたび味わう日が来るとは思わなんだ。まったくなにが起こるかわからない。こんなことは何年かに1度あるくらいなので、根こそぎ買ってしまおうかとも思ったのだけど、今日のところは、上記の『ラッキー・シート』とダブリだけど帯目当てで『第三の演出者』、ずっと買い損ねていた『ことば・しぐさ・心持ち』、以上3冊の戸板本を購入。戸板さんの本をまとめて買うということもこのところなかったので、もうひたすら嬉しい! と、いつまでも心のなかは「!」マークでいっぱい。キャー! 先週の奥村では、『季題体験』と『句会で会った人』の並びに感涙するあまり、肝心の大放出の方はすっかり見逃してしまっていた。とにかくも、かねたくさん、どうもありがとうございました! キャー!

興奮しすぎてくたびれた。京橋図書館に本を返して予約していた本を借りて、イソイソと帰宅すると、五反田の古書展の目録と一緒に、注文していた双雅房の『甘味』が届いていた。『甘味』はちょうど2年前に古書展で裸本を買っていてすでに持っているのだけれど、表紙がはずれてしまってボロボロ、先日の「地下室の古書展」で見ることになった「あまカラ」の古川緑波の連載「食書ノート」で、双雅房の『甘味』が明治製菓のPR誌「スヰート」のアンソロジーだと知って、「スヰート」の重要文献のひとつとして、壊れていないものを書架に収めておくとしようと、函入りが安く売っていたのでとりあえず注文しておいたのだった。で、いざ届いていみると、これまで持っていた版(昭和18年の第4刷)とは雲泥の差の素敵な造本でうっとり。こちらは昭和16年の初版本。買い直してよかった。