一の酉

戸板康二の本を、とりわけながらくの幻だった『ラッキー・シート』(河出書房新社、昭和37年)を買ったのが嬉しくってたまらない。ずいぶん早起きをして、イソイソと家事を済ませて、早々に外出。朝の喫茶店でさっそく『ラッキー・シート』を読み始める。全7篇収録のうち、後半の3篇が中村雅楽シリーズ、まずはその3篇を読んだ。表題の『ラッキー・シート』は初出誌の「宝石」を持っていて、一度読んだことがあった。何年も前のことだから初めて読むような気分で、ウキウキと読んだ。ああ、本当に嬉しいなア! まだまだ時間があったので、前半の雅楽ものではないものも読み進めることに。意外にも小説としてはかえってこちらの方が面白いような気がしてきた。吉田健一の『大衆文学時評』(自作の戸板サイトに詳細あり:http://www.ne.jp/asahi/toita/yasuji/b/references/1_08.html)のことを思い出して胸が躍った。登場人物の配置に演劇の影響が色濃いのは気のせいではないと思う。

昼休みは心持ちよく界隈を散歩。本屋さんで「未来」を入手したあとまたもやコーヒーを飲んで、キリの悪いところで読みさしになっていた『ラッキー・シート』を繰ったあともちょっとだけ時間があいたので、通りがかりに入手した、丸の内が登場する映画を数本紹介した冊子を眺めた。ここで紹介されている小津映画は『彼岸花』と『お茶漬けの味』の2本で、いずれも佐分利信出演映画なのがなんとなく嬉しい。なぜわたしはそんなにも佐分利信が好きなのだろう…。昔大好きだったアメリカンファーマーシーが入っていた日比谷パークビルの跡地は現在工事中で、そのパークビルの前は日活ホテルだったと初めて知る(参考:http://www.tansei.net/kindai/hibiyapark/main.htm)。東京駅の赤レンガを映す『彼岸花』のスチールが実にすばらしくて、しばし見とれる。見とれているうちに時間になった。

夜はひさしぶりに近所で焼酎を飲んだ。量はいつもの半分(ロック2杯)、ほどよく飲んでほどよく酔う。なにごとも、ちょうどいいのに限る。

と、今夜は「一の酉に焼酎を飲む会」のはずだったのに、急遽「吉朝さんを送る会」になってしまった。これはいったいどういうことなのだろう。ひたすら愚痴になるだけなので、このことに関してはもう何も言うまい。今まで聴いた2度の独演会、吉朝さんと初めて出会ったかまくら落語会(id:foujita:20040710)と秋の独演会(id:foujita:20041013)のことを大切にずっとずっと心に留めておくだけだ。