肥田せんせぃ講演会のあと、岩波現代文庫の戸板康二を買う。

日没後、イソイソと鍛冶橋通りを歩いて、INAX ギャラリーへ。「肥田せんせぃが語る、上方こども出版文化」と題された講演会を聴いた。去年夏に京阪神散歩に出かけた折に、ちょうど大阪で《肥田せんせぃのなにわ学》展が開催中で、大阪のあちこちでそのポスターを見かけたものだった。京阪神散歩に出かける前にすでにその図録を書肆アクセスで立ち読みしていて、そこでチラリと見かけた、横山重の『書物捜索』がたいそう気になり、図書館で借りてみたら、思いっきり夢中で呪縛度の高い本だった(しかし、古書価格も高い…、ので買えず)。あのときはえらく暑かったけど、今はえらく風が冷たいなあと、《肥田せんせぃのなにわ学》展は現在東京で開催中。去年大阪に出かけた折に肥田晧三さんの講演会を聴いた方からたいそうおもしろかったというふうに伺って、「いいな、いいな」とたいそううらやましかったので、わたしも真似して、張り切って出かけた次第だった。と、日頃の出不精を振り切って出かけてみると、いつもいいことばかり。「肥田せんせぃ」の姿を見るのは今回が初めてだったけど、そのお話を聴けば誰だって一気にファンになってしまうに違いない。ひたすら「いいなア……」と、そのお話は上方話芸そのまんま、そしてたたずまいそのものが眼福であった。風呂敷から次々に取り出される「上方こども出版文化」史料にニンマリつづき。肥田せんせぃの「ホクホク」が聴衆にも伝染。18世紀と19世紀とで区分できる「上方こども出版文化」を見て、いつのまにか、同時代の歌舞伎史や浄瑠璃のことを考えたりする。今回のお話はとにかくもおみやげたっぷりで、しばらく余波が続きそう。図書館で『近世子どもの絵本集 上方篇』(岩波書店、昭和60年)を借りるのが今とってもたのしみ。


講演会が終わり、肥田せんせいがおっしゃる通り、東京の風はえらく冷たいなあと、コートの襟をたてて、八重洲ブックセンターへ突進。文字通り突進。文庫本売場に直進し、岩波現代文庫の新刊、戸板康二著『歌舞伎ちょっといい話』をガバッと手に取った。わーい、わーい。帰りの電車のなかで、犬丸治さんの解説を何度も読み返して、いつまでもにんまり。岩波現代文庫の『歌舞伎ちょっといい話』は、思っていた通りに、すみずみまで行き届いていて、本全体として「完璧」な仕上がり。頬ずりしたい!