末広亭で小三治の『初天神』をきく。

起き抜け早々、石神井書林の目録が届いていたことに気づく。昨日うっかり郵便受けを見るのを忘れていた。わーい、わーい。こうしてはいられないとイソイソと身支度を済ませ、早々に外出。喫茶店でコーヒーを飲んで、のんびり。まずは、あともう少しで読了というところで読みさしの広津桃子『父広津和郎』をおしまいまで読むことにする。じっくりとその文字を追っているうちに、あたらしい万年筆を買いに行きたくなり、手持ちの吉住小三郎のディスクに耳を傾けたくなり、ひさしぶりに一口坂経由でのんびり家まで歩きたいものだ、などなど、いろいろと思う。このところの一連の広津桃子読みはずいぶん満喫だったなあと晴れ晴れとした気持ちのまま、時間いっぱいまで石神井書林の目録を眺めた。じっくり眺めすぎてなかなか先へ進めない。あるページで、『誄辞と遺稿』というタイトルの矢内原伊作の私家版の文字をみて「おっ」となる。串田孫一の弔辞はどんな感じなのだろう。と、立ち止まっているうちに時間になる。


夜は末広亭二之席へ。一階はほぼ満席で、初めて二階席に座って、嬉しい。ちょうど金馬の一席がはじまったところだった。本日のお目当て、トリの小三治は『初天神』。寄席でおなじみの噺をあらためて小三治でじっくり聴けるという、なんというぜいたく。季節感ぴったりだし、とつい頬が緩んで、ホクホクとなる。二階席から見下ろす末広亭内部の風景ともども、寄席っていいなア! と、ひさびさに寄席に行くたびにいつも思うことを今回もしみじみ思う。ゾロゾロと人ごみにまぎれて出口に向かう直前、来月の下席の夜の部の主任が雲助だと知り、よろこぶ。手帳にメモする。


夜ふけ、寝床で坪内祐三の『ストリートワイズ』を数年ぶりに繰る。このところ、山中共古に興味津々! と思っていたら、ここでとっくに語られていたと最近気づいて「おっ」となっていたのだった。広瀬千香さんに関する文章をじっくりと目にして、坪内祐三を初めて読んだ頃の感覚が鮮やかによみがえってきて、いたく感動する。ずっと忘れていた感覚だった。