戸板康二の書簡を買う。

せっかく起きたというのに朝からとっても眠い。このままでは一日の活動に支障をきたすこと必至なので、今朝はちょいと高いコーヒーを飲んで、目を覚ますことにする。火曜日の夜に入手してからというもの、肌身離さず持ち歩き寝るときは枕元においている岩波現代文庫の新刊、戸板康二の『歌舞伎ちょっといい話』をひとたび繰ってみると、とたんにウキウキ。それにしても、嬉しいなア! と、急に機嫌がよくなる。


日没後、ちょいと神保町に寄り道。ドジなことにうっかり「本庄桂輔宛戸板康二書簡セット」というのを注文してしまったので、スゴスゴと引き取りにゆく。注文してしまったからには責任をとらないといけない。新年になってからというもの新刊古本を問わず本をあらたに買うのは一切控え、今月のお買い物は『歌舞伎ちょっといい話』のみ計1260円、となりそうだとひとり喜んでいたというのに、その自己満足のつつましき日々が根本から覆されたというか、全部ぶちこわしというか、そんな感じだ。戸板康二の書簡は年末に「原千代海宛ハガキ3枚セット」というのを買ったばかり。うーむ、本を買うよりもさらに悪い方向に向かっているような気がする。軌道修正するなら今のうちだ。……というようなことを思いつつ、なにしろ注文してしまったからには責任をとらねばと悲壮感すらただよわせつつ「本庄桂輔宛戸板康二書簡セット」を引き取ったのだったが、いざ引き取ってみるととたんに、わーい、買っちゃった、買っちゃったッ、と大喜び。往年の「学鐙」ファンにとっては嬉しいかぎり。これを機に、前々から凝っていた「学鐙」初出誌の系譜、をさらに追求するのとしよう。福原麟太郎がいかにも似つかわしい雑誌はいい雑誌ばかり、というのが前々からの確信なのだった。


帰宅後、ミルクティを飲みながら、本棚の本をあれこれ繰る。バッハの平均律リヒテルのディスクで低音量で流す。お茶うけの、「ギャラリー遊形」で買った俵のかたちをした和三盆、とうとうおしまいの一粒になってしまった。本庄桂輔宛のハガキで、戸板さんが原稿依頼快諾のお返事を書いている。このとき戸板さんが書いたのは藤木秀吉のことを綴った文章だなとすぐにわかった。いつか大学図書館で嬉々とコピーした単行本未収録の文章だ。戸板さんは「学鐙」に書くのをさぞ喜んだことだろうと思って、ジーンとなる。ゆっくりと戸板さんのお手紙を眺めてゆく夜ふけであった。