三宅坂を通り、神保町を通る。

朝からなんとなくクサクサするので、歩いて出かけることにする。お濠端をテクテクと三宅坂を下ってゆく。なだらかな下り坂がたいへん心地よい散歩道。しかし、今日は曇っているからよいものの、いかにも日焼けしそうな道だから毎朝は無理だなあと思いつつ、お濠に目を転ずると、鴨が移動したあとの水面の幾何学的な変化がおもしろくて、歩きながら観察。観察しているうちに急に、中世ヨーロッパの大学の教養課程の必修7科目のうちに「音楽」があるのはなぜか、ということを思い出す。だからなんだという感じだけど。歩いてもまだ時間があったので、コーヒーを飲む。出がけに突発的に持参したとあるお料理の本を眺める。柚子こしょうが急に欲しくなる。


昼休み、特にこれといった用事はないが、本屋さんへ。「未来」と「月刊百科」を持ち帰る。タイミングが合わないのか「月刊百科」を手にとるのは1年に1度あるかないかだ、わーいわーいと急に機嫌がよくなる。


帰り、早々に家に帰ることにする。神保町を通りかかる。三茶書房の軒先のワゴン台をなんとはなしに眺める。ここのワゴンは通りかかるたびについ眺めてしまうけど、買ったことは一度もないのだった。200円コーナーに文春文庫版の獅子文六『食味歳時記』があった。解説は誰かなと手に取ると神吉拓郎なので、ちょっと欲しくなった。けどこれ1冊だけで店内に押し入るという気にはならんなあと横歩きすると、隣は300円コーナー。講談社の「日本近代絵画全集」の端本がずらっと並んでいる。加藤一雄の解説だったけかなと『土田麦僊・村上華岳』の巻を手に取ると、もくろみどおりに解説は加藤一雄だった。先ほどの獅子文六と合わせて計500円。うーん、まだちょっと店内に押し入る気にはならんなあとさらに横歩きすると、最後は500円コーナー。筑摩書房の「明治文学全集」の端本がずらっと並んでいる。ふと、『水野葉舟 中村星湖 三島霜川 上司小剣集』の巻が目にとまる。この冴えない顔ぶれがたまらぬと、前々から読んでみたかった上司小剣と最近気になる霜川いう組み合わせというのに惹かれ急に欲しくなる。月報も付いていることだしと買っておくことにする。先ほどの2冊と合わせてちょうど計1000円。やっと店内に押し入る気になり、引き戸を開けて歩を進めて、お会計。

このところ本を買うのを控えていたので、買い物をした、というだけで、なんだかとっても充実感。急に機嫌がよくなり、適当に本屋さんをめぐる。とあるお店で、小山書店版の徳田秋声『縮図』を手に取る。内田巌の挿絵つきなので、つい欲しくなる。けど、こらえる。…というようなことを幾度か繰り返し、最後は岩波ブックセンター白水社から宮下志朗の新訳で『エセー』全7巻の刊行がすでに始まっていたとは、不覚にも見逃していた! と興奮するも、今日のところはこらえる。