文化生活一週間 #17

今週のおぼえ帳

4月29日土曜日、一箱古本市http://sbs.yanesen.org/hako1/)は無事に開催だー、わーいと11時ちょっと過ぎに西日暮里駅におりたち、道灌山通りをテクテクと先週西荻で入手した「不忍ブックストリート MAP」片手に、森茉莉街道をゆくhttp://blog.livedoor.jp/chiwami403/)のちわみさんがご出店の「花歩」へ向かった。左折して花歩の辺りが視界に入ってくると遠目にもいかにも盛況な様子が伺われて、おっとこうしてはいられないと思わず走り寄る。去年の一箱古本市めぐりはオヨヨ書林がスタートで古書ほうろうがゴールだった。コースを練る際に去年も今年もスタートはちわみさんの出店場所となり、そんなこんなで、今年は花歩がスタートでオヨヨ書林がゴール。ちょうど去年と逆順でめぐることとなったのもなかなかオツなことであった。

開催開始からまだそんなに時間はたってなかったけど、花歩前も早くも大盛況。箱の前にいつまでも居座っていてはあとから来た人が見られないしと、そんなにゆっくりはできなかったのだけど、去年に引き続いてちわみさんの箱はいい本を惜し気もなく安く提供していて(そして、ちわみさんの接客がナイス!)、ひんぱんに古書展に行っていそうな老紳士も「おっ」となっている様子なのがいかにもな感じだった。「あ、この本、好き好き」というような本がたくさんあって、たとえば、今東光『東光金蘭帖』(中公文庫)って実に面白いですよねえとかなんとか、店主さんとおしゃべりしたくなってウズウズ。しかーし、お客さんがたくさんいらっしゃるので、いつまでも長居はできないので、大急ぎでひとまず購入したのは、実は今までずっと機会を逸していた小島政二郎『食いしん坊』(文藝春秋、昭和29年)と文庫本2冊の計3冊。「購入」と呼ぶにはちとずうずうしいのでは? というほどおまけしてもらってたいへん恐縮、であった。『食いしん坊』の2巻を今度お譲りしますわよ〜というちわみさんの声を背後に、後ろ髪を引かれつつ花歩を去る。

ちわみさんからいただいた榮太樓の梅ぼ志飴を口の中に放って、次は古書ほうろうへ。こちらではたくさんの箱を一度に見ることになって、フムフムと幾度も見まわして、それぞれの箱のなかの本が反映するところの店主の個性というか持ち味が、フムフムと実にいい感じなのだった。そうそう、これが一箱古本市というものなのなのだなアと、「この感覚、まさしく一年ぶり!」とますますエンジンがかかるのだけれども、ここでちょいと寄り道、古書ほうろうの店内へ。一箱古本市の折に訪れるとしようと前々からたのしみにしていた稲垣書店の企画(http://www.yanesen.net/horo/info/1493)をじっくり眺める。去年の盛夏の頃に一度だけ出かけたことのある三河島稲垣書店を懐かしく思い出して、いい気分。あのときは散財したなあ。大阪に出かけた直後に、藤沢桓夫『大阪自叙伝』中公文庫(300円)を入手して嬉しかった。『大阪自叙伝』はまだ読んでいない…。

よみせ通りでは、やなか珈琲店前の南陀楼綾繁さんより、幻戯書房より5月末刊行の、内澤旬子著『センセイの書斎』のチラシをちょうだいする。副題には、イラストルポ「本」のある仕事場、とある。ここ何年かにわたって、いくつかの雑誌でひょいと目にするたびにウキウキだった内澤旬子さんによるイラストルポが一冊の本になるという。なんと素晴らしいことだろう! と思わず大はしゃぎ。ずいぶんひさしぶりに入手に成功したわいと喜んでいたらいきなり最終号だった三省堂の PR 誌「ぶっくれっと」(http://www.sanseido-publ.co.jp/booklet/booklet.html)には千野栄一の書斎が紹介されていたものだった。雑誌の類はたいてい処分してしまうけど、その「ぶっくれっと」(2002年3月号)、例外的に今でも大切にとってある。それから、思い出すのは、いつかの神保町の書肆アクセスにて今回も散財しちまったわいとお会計をした直後に、当店が紹介されていますのでどうぞとお渡し下さった未来社の PR 誌「未来」で内澤さんによる書肆アクセスのイラストルポを拝見できて、あのときもたいそう胸が躍ったものであった。……などと、ついいつまでも追憶にひたってしまうのだけど、とにかくも『センセイの書斎』の刊行がたのしみ、たのしみ。「書斎本」好きとしても嬉しい刊行なのだった。

そんなこんなで、早くも時分どき。本日の昼食は「乱歩゜」のドライカレーなり。いやあ結構、結構と外に出たところで、今度は6月に開催の「地下室の古書展」(http://underg.cocolog-nifty.com/tikasitu/)のチラシをちょうだいする。いつもながらに、古書展だけでもたのしみなのに、さらに輪をかけておたのしみなイヴェントが目白押し。トークショウの類にはいつも行き損ねてばかりだったので、今度こそ今度こそ、聞きに出かけたいものだとつい鼻息が荒くなってしまうような、魅惑的なトークショウがたのしみ、たのしみ。

と、歩を進めていると立て続けにチラシをちょうだいして、書物にまつわる未来のおたのしみが増えてゆくというのが、いかにも「一箱古本市」だなあと思う。古本を探すというのに加えて、町歩きをたのしんで、おいしいものを食べて(ちわみさんの飴にはじまる)、路上でチラシをちょうだいしたりという、この一連の時間。いただいた紙モノとしては、ほかには、「古書肆『噂の犀』スクラップ通信」第1号がとてもよかった。「東京セドリーヌ」さんからいただいた栞も素敵だった(さっそく、買ったばかりの『食いしん坊』に使用)。

去年に引き続いて、「スタンプを15コ集めてプレゼントをもらおう!」とめぐっていくうちにスタンプラリーの方に燃えてしまい、本を見るのが二の次になってしまってしまいがちだったのが、今年もしょうこりもなく反省、であった。でも、スタンプラリーのおかげで、すべての箱を見ることが一応は出来たのだから、よしとしよう。谷根千工房を初めて訪れて、ちょっとときめいたりも。ゴールのオヨヨ書林にさしかかったところで、雨が本降りになって、諦めて傘を広げた。スタンプラリーの景品はコースター2枚組。初夏の夜、ビールをグビグビ飲むときに使用するつもり。スタンプラリーを終えてみると、15のスタンプが「街と本と人しのばずくんが縁結び」の15文字を刻んでいた。まさしくおっしゃる通りと、早くも来年の一箱古本市がたのしみ。来年はわたしも本を売りたいなと去年思ったものだったけど、結局出し損ねた。来年はどうなるかな。ま、ぞろっぺいなわたくしのこと、結局、出し損ねるのだろうけど……。

最後に、「森茉莉かい堂」と並んで、極私的にグッときたのが、「乱歩゜」前にあった、とある一箱。店名は確認し損ねてしまったのだけど、その一箱には、ハヤカワライブラリー版『夢声自伝』5冊セット(5000円)と福田勝治写真集『銀座』(3500円)が入っていたのであった。なんという見事な並びであろうか。そのセレクションと絶妙な価格設定に唸る。早川版の『夢声自伝』は第3巻だけ手元にあって、講談社文庫版『夢声自伝』全3冊と内容は同じだけど、早川の新書版は造本がそこはかとなく素敵な上に文庫では見ることができない図版がたくさん載っているので、講談社文庫を持っていてもぜひとも手に入れるべき逸品。福田勝治の『銀座』は ggg河野鷹思展で見て以来、長年欲しいと思っていたもの。ああ、なんで買わなかったのだろう! と、あとになって後悔至極……。ま、それはさておき、その一箱に心から賛辞を。

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