朝は湯浅芳子をとりまく人物を思い、夜は新しい「サンパン」を繰る。

朝。瀬戸内寂聴孤高の人』(筑摩書房、1997年)を読む。「ちくま」今月号の関川夏央の文章(http://www.chikumashobo.co.jp/pr_chikuma/0703/070308.jsp)で湯浅芳子のことが書いてあると知って、そこはかとなく読んでみたいなと思って、新刊のちくま文庫を買うのではなく、せこく元版を図書館で借り出した次第。吝嗇でのべつまくなし人の悪口を言っていた湯浅芳子野上弥生子には頭が上がらなかったというくだりにニンマリ。その野上弥生子の陰口は言っても、網野菊のことだけは決して悪く言わなかったというくだりにちょっと和む。……とかなんとか、挿話の数々がおもしろかった。瀬戸内寂聴の女子大の友人が福田恆存の夫人、という縁で、結婚生活が破綻したとき彼に人生相談をしたというくだりが「おっ」、なかなか感動的なのだった。福田恆存女性誌に連載していた『私の幸福論』のことを思う。「春燈」の稲垣きくの(松竹蒲田で売れない女優をしていた)のくだりも「おっ」、赤坂の久保田万太郎の終の棲家にまつわることは初めて知った。宮本百合子湯浅芳子がソヴィエトから帰国し本郷菊富士ホテルに投宿したのが昭和5年末のこと。この本、さながら湯浅芳子をとりまく「あの人この人 昭和人物誌」という感じ。人物誌的な読み物としてひょんなことで読む機会がめぐってきて、よかった。1月に西荻ブックマーク(http://members.jcom.home.ne.jp/43zoo/nbm/nbm.htm)で、尾崎翠の『第七官界彷徨』の映画を見たとき(たいへんすばらしかった!)、浜野佐知監督が上映後のトークショウ(たいへんおもしろかった!)でいつか湯浅芳子のことを映画化したいというようなことをちょろっとおっしゃっていたのを、なんとはなしに思い出した。


夜。届いたばかりの「サンパン」13号(2007年3月発行)を繰る。ひさしぶりに新しい「サンパン」を手にすることができて、こんなに嬉しいことはない。「執筆者近況報告」の欄でお二方、去年読んだ本のベストを挙げおられるのを見て、いいな、いいなと一緒になって、去年のベストはなんだろうというようなことをつい思ってしまって、なんだかたのしい。



と、そんなわけで、去年読んだ本のベストはなにかしらと思ったところで、迷わず入る一冊は、青山光二『食べない人』筑摩書房ISBN:4480814809)。画像は昨日に引き続いてイチゴの絵、本日は香月泰男によるイチゴなり。『食べない人』はおもに「四季の味」の連載をまとめていて、最後に「新日本文学」にかつて書いた短篇が付く(著者まえがきににっこり)。これを機に『吾妹子哀し』を読み返したのも格別だった。2冊合わせて読んでますます格別だった。去年10月、母上と京都一泊旅行に出かけた折、夕食のあと宿泊先(「ふじた」なのでホテルフジタ京都)に向かって歩く途中、『食べない人』に登場しているフランス料理店の前を思いがけなく通りかかって「まあ!」と、夜の木屋町通の暗闇とあいまってなんだかもう最高の瞬間だった。あのお店でいつかワインを飲みたい。