上野の休日

foujita2003-09-15



連休最終日は上野へ。開館直後の国立西洋美術館へ行き、ゆっくりとのんびりと途中長らく椅子に座ったりもしつつ午前中ずっと美術館で過ごした。午後は鈴本演芸場。こう暑いと寄席で涼むしか他にしようがない。なんて言いつつ、雲助師匠のことが心から離れずつい聞きに来てしまったが本当のところ。鈴本に行く度にたのしみに持ち帰るのが、地域PR誌「うえの」。国立科学博物館の《地震展》にちなんだ特集のなかに、串田孫一の「幼い頃の大地震」という文章があった。このところ串田孫一にあちこちで出会う。

展覧会メモ

ウィーンの美術史美術館がきっかけで、レンブラントをはじめとする、フロマンタン『オランダ・ベルギー絵画紀行』(岩波文庫)で言及される絵画を見るのが結構なたのしみになって久しい。というわけでストライクゾーンな今回の展覧会、どんな感じだろうとほんの物見遊山ではあったが、しっかりとフロマンタンの書物に言及され、そればかりか17世紀オランダ絵画を「発見」したフロマンタンが言及するのは風景画や風俗画などの「非物語画」ばかりであって、実はレンブラントのメインともいえる聖書などを題材とした「物語画」を無視していることに対する批判、というのが今回の展覧会の基調なのだった。あらためて書物へ戻ってみたくなるような刺激に満ちた展覧会だった。

レンブラントの版画コーナーがとてもよかった。一面真っ黒な画面のなかで細かい線で対象が浮かび上がっている版画など、レンブラントの油彩と同じように光と影のマジックだった。童話めいたふわふわした線が散見できたこともたのしかった。油彩でも背景が黒でパッと対象に光が注いでいるといった画の典型的なところに対面するたびに眩しい思いだった。

バッハなどの宗教曲や諸々のいろいろな絵画に接するたびに、わたしに「聖書」の教養が身についていないことがひどく気にかかる。聖書の知識がもう少しあれば、格段に面白さが増すような気がする。

常設展は好きな絵だけをピンポイントで見学。そのときの体調で好きな絵が変わってくるというのがわかってたのしい。今回はサム・フランシスの《ホワイト・ペインティング》になぜかひたってしまった。常設展のところにある、ワイヤーメッシュの椅子でくつろぐのがここにくる毎度のおたのしみ。窓の外の緑と光の調和がなんとも風光明美。外はいかにも暑そうだ。


落語メモ

    (仲入り)

権太楼さんの途中から入場。目当ての雲助師匠はやはりまず渋い着物が目の歓び、とても素敵なのだった。肥がめを買ってお祝いに赴く二人の男、彼らのやり取りがやっぱりそのまんま歌舞伎の生世話風でくっきりと人物が浮き上がってくる、そのくっきりさがいつもながら無類にかっこいい。雲助師匠の落語を聴きながらポワーンと肌で感じる長家の世界が大好きだ。肥がめを持っていって、食事にありつくところのちょっとした描写、たとえば冷奴と香の物といったくだりがまた無類にいい! キャー!

と、雲助師匠を堪能するという点で申し分がなかったが、今回のびっくりは市馬さん。先月の鈴本では「こんにゃく問答」を聴いた市馬さん、今回いきなりハートに直撃。流水が流れるような涼しげな語り口、くすんだ薄茶色のきものがとてもよく似合い、マクラで披露の相撲甚句「鶴と亀」が素晴らしい! 噺にも引き込まれぱなしだった。そして喜多八さん、マクラでのいつもの芸風に大笑い、いつのまにか噺に突入しているところも鮮やかで「小言念仏」は初めて聴いた噺だった。巧いなあ。トリの「井戸の茶碗」、二人の武士の間を行き来する清兵衛さん、その鮮やかな間の取り方が印象に残った。志ん輔さんも毎回いつもちょっとたのしみで、そして毎回期待を裏切られることがない噺家さんなのだった。

本日の備忘録:市馬さんを要チェーック!