寄り道古本日記

明日はお休みだし今日はこれといった予定もないしで、ひさびさに荻窪ささま書店に行ってみることにして、日没後いそいそと東京駅で丸の内線に乗り込んだ。中央線で行った方がずっと早いに決まっているけれども、東京駅から丸の内線で時間をかけて荻窪に行くのが結構お気に入り。地下鉄で行った方がJRより乗車賃が安いというせこい理由もあるし、なによりものんびりと座って本をひたすら読めるのがよい。丸の内線で荻窪に行こうとすると途中で新宿伊勢丹に寄りたくなり下車してそれっきり荻窪中止というパターンが実はとっても多いのだが、伊勢丹は昨日行ったばかりだから今日は大丈夫、安心して丸の内線に揺られて荻窪へ向かった。車内の読書は『久保田万太郎全集第2巻 小説2』(中央公論社)。

ずいぶんひさしぶりの荻窪ささま書店荻窪の駅に着くとつい早足になってしまうのもいつものこと。ああ、すばらしきささま書店! と、今日もひたすら興奮、無駄に長居をしてあれこれ迷うあまりにしまいにはどうしたらよいのか自分で自分がわからなくなり結局たいした買い物はできず、というよくあるパターンになってしまった。


以下、お買い物メモ。

今年になって初めて読みはじめた書き手の一人が芝木好子さん。文章からただよう著者独特の理知がなんだか好きだ、あとなんといっても東京小説の書き手として戸板康二と同時代の東京を書いてくれている書き手として愛読している、といっても、体系的に読んでいるわけではなくてピンポイント式に目についたものを読んでいて、もう一度最初からと思って今ちょうど『芝木好子作品集』を図書館で借りて読んでいたところだった。『湯葉』から始まる三部作と『洲崎パラダイス』などを。というわけで、なんとなく芝木好子モードだったのと、谷内六郎の装幀がなんとなく愛らしいのでこの本に決めた。1000円。芝木好子さんというと、デビュウ作の『青果の市』が佐野繁次郎の装幀とのこと、どんな本なのだろう。ユトレヒトに行けば見られるかな。

  • 『ホシは誰だ? 犯人当て推理アンソロジー』(文春文庫、1984年)

執筆者のひとりに戸板康二がいたので。400円。

未読の岩波文庫露伴本なので。200円。

  • 丸谷才一『遊び時間2』(中公文庫、昭和58年)

ささま書店の罠は、やっとのことで買い物を済ませて外に出ると、今度は軒先の100円コーナーにつかまってしまうというところ。先に100円コーナーを見ておけばよいのに、いつも気が急いてまず中に入ってしまい、毎回同じ失敗をする。と、今日も100円コーナーに長居。夜風が冷たい。100円コーナーだけでも買いたい本が結構あるのがまたおそろしい。丸谷才一の『遊び時間』は以前第1巻をなんとはなしに買ってみたら面白かったので2巻を探していた。100円で見つかるなんて言うことなしである。

今日のささま書店では、ちょいと高めの本で欲しい本が何冊かあった。すでに持っている本でこれは安いというのも何冊かあった。いくつか例をあげると、戸板康二『芝居国・風土記』500円、前に来たときも棚にあったこの本、目からウロコの編集術の垢抜けしていてとっても洒落ている上にとっても面白い歌舞伎本。六代目菊五郎『藝』1000円、これはお買い得。100円コーナーでは、丸谷才一編『花柳小説名作選』集英社文庫が2冊も。これもなかなか秀逸で、野口冨士男との対談もあり表紙は小村雪岱。あと、戸板康二『元禄小袖からミニスカートまで』も100円コーナーにひっそりとあった。……というわけで、「誰か買って!」と心のなかで叫びつつ、荻窪をあとにしたのだった。

ひさしぶりのささま書店でハイになってしまい、よせばいいのに西荻窪にも足をのばした。西荻では音羽館をのぞいただけ。音羽館も行くとたいてい欲しい本がある。今日もあれこれ迷って疲れ果てた。音羽館でのお買い物は、

これはすばらしい! 縞の着物を着て緑の帯と手ぬぐいの志ん朝さんの高座姿の表紙写真だけでもすぐさま買ってしまうのだけど、中身も実に素晴らしかった。正蔵の有名な稲荷町の長家の生活を写したページ、矢野誠一さんと馬生師匠の対談、寄席でおなじみの名所の写真の数々、扇橋さんがモデルになって噺家の小道具使い、扇子と手ぬぐいを鮮やかに操る様子をいくつものショットでとらえるコーナーなどなど図版も楽しければ、矢野誠一さんの文章ページ、誌面構成が実にすばらしい。この本のこと、今日初めて知った。500円。

と、音羽館では1冊のみのお買い物だったのだけれども、ほかに欲しい本が何冊もあった。また近いうちに行ってしまいそう。

音羽館のあとは西荻に来るたびにいつもつい行ってしまう喫茶店、居心地がとてもよくて飲み物もおいしく価格もお手ごろ、読みたい雑誌が置いてあって夜遅くまでやっている上にいつも空席がある、と古本屋のあとにぴったりのとあるお店に行って、今日もずいぶん長居をした。西荻の夜が好きだ。