黄金餅の言い立て

小沢昭一の『話にさく花』を読んでいたところで、11月に晶文社より『小沢昭一百景』全6巻が11月に出るということをid:mittei-omasaさんの日記で知り、そのシンクロ具合にびっくりだった。11月は富十郎の『船弁慶』があることだし、いろいろ大変だなあ、ますます体調を整えておかないとと思い、まずは日々のたゆまぬ風邪の予防をということで、とりあえず張り切ってうがい薬を買ってきた。

その『話にさく花』に『江戸切絵図と東京名所絵』(小学館)という本の前書きとして書かれた文章があって、落語の『黄金餅』における上野下谷から麻布までの道筋を順順に言い立てるくだり、『黄金餅』の眼目の箇所をもとに散歩プランを練ってみるというようなことが書いてあった。『黄金餅』の言い立ての部分、大好きで大好きでここだけ何度も聴き返したりなんていうことをしていたので、嬉しかった。

下谷の山崎町を出まして、あれから上野の山下へ、三枚橋から上野広小路へ出まして、御成街道を五軒町へ出て、そのころ堀さまと鳥居さまのお屋敷前をまっつぐに、筋違御門から大通りへ出まして、神田の須田町、新石橋から鍛冶町へ出まして、今川橋から本白銀町へ出まして、石町から本町、室町から日本橋をわたって通四丁目から中橋へ出まして南伝馬町から京橋をわたってまっつぐに、新橋を右に切れまして土橋から久保町へ出まして、新シ橋の通りをまっつぐに、愛宕下へ出て天徳寺を抜けて、飯倉六丁目から坂をあがって飯倉片町、おかめ団子という団小屋の前をまっつぐに、麻布の永坂をおりまして十番へ出て大黒坂をあがって、一本松から麻布絶口釜無村の木蓮寺にきたときには、ずいぶんみんなくたびれた……あたしもくたびれた」(古今亭志ん生黄金餅』より)

まだ志ん生のディスクは聴いておらず、いつも聴いているのは志ん朝の録音。なので上とちょっと違う。言い立ての結びの「あたしもくたびれた」というのを志ん朝さんは言っていない。榎本滋民さんによると、志ん朝さんがここをなぞっていないのは、こここそは芸の年輪のなせる技で、いつの日か「あたしもくたびれた」と志ん朝がつぶやき、ファンがその滋味に陶然となることを期待条件として……とのこと。志ん朝さんの「あたしもくたびれた」は実現したのかしなかったのか、とにもかくにも三回忌だ。