冴えない一週間を乗り越えて、待ちに待った古書展がいよいよやってきた、というわけで今日は張り切って早起き。まずはJRを乗り継いで京浜東北線で東神奈川駅へ向かった。車内の読書は獅子文六『七時間半』。神奈川古書会館に思いっきり長居したあと、東横線の反町から代官山へ。重い荷物もなんのその、代官山を思いっきり歩きまわり外套の予約をしたりもする。渋谷から井の頭線に乗って下北沢で映画を見たあと、新宿で明日の朝食用のパンを買って帰宅。グツグツと本日の夕食を煮つつ、買ってきた本を次々にめくった。
反町の古書展に向かったそもそもの動機のとある紙モノについてはドキドキがまだおさまっていないので後日にまわして、ここではその他のお買い物メモを。
- 『うえの春秋』(上野のれん会、昭和55年)
「銀座百点」より遅れること4年の昭和35年に発行のタウン誌「うえの」の二十周年を記念して編まれた1冊。「銀座百点」にもおんなじような選集があるがそちらは三十周年記念なので昭和60年の発行だ。『銀座百点撰集』はちょうど1年ほど前、戸板康二の『句会で会った人』を読んだあと奥村書店で見つけてすぐに買って以来宝物のような本になっている。『うえの春秋』の存在を知ったのは今日が初めてで、充実度という点で『銀座百点撰集』にまさるともおとらない。目次に連なる人々のなんと豪華なことだろう。うるわしの東京本。表紙絵に長谷川利行の絵が使われたりもしている。たいへん嬉しい買い物だった。1200円。
と、今日の買い物ではこの本がいちばん高かった。あとは500円以下のものばかり。
- 『あまから随筆』(河出新書、昭和31年)
「あまカラ」のアンソロジーは昨日も奥村書店で買ったばかり。「あまカラ」のアンソロジーは全部で何種類あるのかな、この河出新書は唯一戸板康二も収録されているのが嬉しかった。獅子文六と佐野繁次郎の間にはさまって戸板康二の名前が目次に並んでいて、タイトルは「試写室の食欲」。初めて目にした文章だった。
- 『甘味』(双雅房、昭和16年)
このお菓子随筆のアンソロジーも目次が豪華! 木村荘八、久保田万太郎、芥川龍之介、小山内薫、谷譲次、内田誠、辰野隆、獅子文六、徳川夢声……、自分自身の本読みの好みの方向(彷徨)がそのまま目次になったかのよう。双雅房に興味を抱いていたところでもあったのでグッドタイミングだった。裸本なのでとっても安かった。
これも裸本の安売り本。神保町でよく立ち読みをしていた本。久保田万太郎のもっとも好きな部類の短い随筆が収録、去年ささま書店で買った『さんうてい夜話』の再録もある。舞台装置家で万太郎の「茶の間の会」のメンバーでもある伊藤熹朔による装幀。伊藤熹朔は万太郎の装幀をけっこう手掛けていて、いずれもいかにも万太郎に似つかわしいデザインになっていて、毎回見るのがたのしみな装幀家。
これも裸本の安売り本。前から欲しかった本だ。いろは順に名前を並べた夢声の交遊記、「い」は岩田豊雄(獅子文六)、「ろ」は古川ロッパというふうに続いてゆく。夢声の雑文の面白さを心ゆくまで堪能できる。口絵に木村伊兵衛の夢声の肖像写真あり、夢声の写真を見るといつもその着物姿に見とれてしまう。
- 澁澤秀雄『手紙随筆』(文藝春秋新社、昭和31年)
と、「いとう句会」の面々が続いている。今の最大の関心事項は「いとう句会」なのかもしれない。この本は以前ささま書店の棚で見て、今度来たときに買おうと見送ったら、次に来たら消えていたというもの。渋沢秀雄の随筆を読むのは今回が初めてだ。わたしの戸板康二『あの人この人』探検はまだまだ続いている。
新潮文庫の「男性自身」で持っていない巻があったら、よほど高くない限り必ず買う。前から気になっている、山口瞳が言い出しっぺの志ん生の大津絵を聴く会に関する文章が入っていたことと、戸板康二の小説にヒントを得て大村彦次郎が企画した「小説現代」の名物「酒中日記」のことが書いてあったのがまず嬉しかった。山口瞳の「男性自身」はいつ何度読んでもそのたびにおもしろい。いつの日か、「男性自身」の完全な全集(人物索引付きで)が発刊されることを! 横山政男の解説に戸板康二も常連だった新橋の酒場トントンのことが書いてあったのも嬉しかった。
- 『串田孫一著作集4 日記』(大和書房、1968年)
串田孫一自身の装幀が素敵で挟まっている栞も巻頭のコラージュも素敵なこぶりなこのシリーズは500円コーナーに何冊か並んでいた。全部欲しかったのをこらえて1冊だけ買った。これからしばらくは、これが就寝前にペラペラめくる「寝酒本」。さて、今夜からさっそく。