十三夜

停留所でバスを待っているとビルの向こうに見事な夕焼け空だった。今日乗ったバスはここ数カ月の大のお気に入り路線で、行き先はいつもとある図書館である。電車で行った方がずっと早いに違いないが、車窓から道を行き交うテールランプのさまをぼーっと眺めているうちに、いつも一日の疲れがじんわりと和らいでゆくのだった。

タリーズエスプレッソを飲んだあとで、いざ図書館へ。ずいぶん前からこの図書館で昔の雑誌記事をいろいろ見ているのだったが、今日は「劇評」という雑誌をチェック。戸板さんが行きつけにしていたという、新橋の喫茶店の広告などもあった。昔の新橋がちょっと気になる。作業が一段落したあとは、丸善の「学鐙」、今日は昭和30年代のものをめくった。それにしても「学鐙」のなんと見事なこと。福原麟太郎がいかにも似つかわしい雑誌はいい雑誌、という気がする。と思っていたところで、戸板康二のエッセイをひとつ発見。初めて見る文章。今考えていたことにぴったりな文章で嬉々とコピーした。

そんなこんなで、いつのまにか閉館の放送が流れて、家に帰ることにする。今日は十三夜、図書館を出て空を見上げると見事なお月さまで、月の下も薄い雲がさーっと動いていく様子に見とれた。坂道を下ってもう一度空を見ると、今度は雲などまったくなく、月が泰然と輝いていた。帰りの地下鉄で「学鐙」のコピーを何度も読みふけった。