はてなダイアリーが選ぶ名盤百選

foujita2003-10-23


はてなダイアリーが選ぶ名盤百選、モモさん(id:Tigerlily)からバトンを受け取って、レコードを1枚紹介することになりました。

音楽といえばクラシックが好きでクラシックばかりを聴いているのだけれども、聴きながら何か考えたりすることは皆無で、いつもただの気分で聴いている。聴こえてくる音の運びにふわふわといい気持ちになってみたり、お茶を飲んでいる時間のようにちょっと埋没してみたり、何か美しい絵画を眺めて放心するときのようにハッとなってみたり、いつも音の流れがかもしだす波動というか推移に身をまかせるだけなのだった。

そんな気まぐれな聴き手にもっともぴったりなのがシューベルトピアノ曲だと思う。うっとりするようなメロディが止めどなく流れてきて、音の運びとか変化具合がさりげないながらもおもしろくて、しかし、おしつけがましさは微塵もなく音楽の方で勝手に流れているという感じすらする。全然重くはないけれども、どこまでも高くて、どこまでも深い。

シューベルトピアノ曲のうちもっとも再生頻度の高いのはどれかしらということになると、わたしの場合、ダントツで《即興曲集》。シューベルトを特に好んで聴くようになったのは、ある日なんとはなしにラジオから聴こえてきた即興曲集のうちの1曲、今おぼえば作品90の4曲目だった、その響きが忘れられなくて、あわててラドゥ・ルプーのディスクを買いに行ったのだった。それからというものいったい何度聴いたことだろう。

シューベルトの《即興曲集》は作品90と作品142、それぞれ4曲のセットで全部で8曲、レコードを買ったまなしは作品90の方ばかり聴いていて、やがて作品142の方に入って、作品142ばかり聴くようになって、そして作品90に戻っていって、今は同じ頻度で聴いている。シューベルト即興曲集はどの曲も素敵な音楽ばかり、どれを聴いてもいいし、適当にピックアップしてもいいし、続けて聴いて全体の調和をたのしむのもいい。途中でやめたっていい。なにしろ「気まぐれ」という言葉がぴったりなシューベルトだから、どう聴くかは聴き手の気分次第だ。

シューベルトの《即興曲集》には親しみやすさと崇高さがしっかり同居している。美しくてうっとりだし、共感はわくし、そして何よりも垢抜けがしている。単純さという点だと作品90の方、でも音の推移のひとつひとつに耳をすませてみると軽やかだけどどこまでも尽きない。崇高さという点だと作品142、孤独だけどこの高みはいったいなんだろうと思う。特に3曲目の「ロザムンデ」の変奏曲の至福といったら!

内田光子さんはシューベルト生誕200年の1997年にシューベルトチクルスをスタートさせて、この《即興曲集》がその最初のレコード。わたしがクラシックを聴くようになったのは1994年のこと、なので今年で音楽生活満10年だ。10年となるとやっぱり長い。内田光子さんに出会ったのは1996年の秋、サントリーホールで聴いたシューベルトソナタ D.960 にメロメロになって、その翌年から次々に発売されたシューベルトの録音を大事に大事に聴き続けている。

内田光子さんのシューベルトに出会う前は、クラシックを聴くという行為にどこか身構えているところがあったのか、一生懸命本を読んだりして分析を試みたりでどこか頭でっかちになっていたけれども、内田光子さんのシューベルトを機に気持ちが軽くなったというか自意識がなくなったというか、なんだかポワーンと自然になってきた。生活習慣化した、ということなのかもしれない。お茶を飲むみたいに音楽を聴く。そんな音楽聴きのスタイルが身についたという点でもわたしにとっては記念碑的なレコードなのだった。(個人的な話だけども。)


★ どのレコードにしたものやらと激しく迷ったものの、結局は最近一番よく聴いているディスクになりました。10月になってからというものこればかり聴いている。内田光子さんはモモさんと同じ東京育ちロンドン在住のかっこいい人。来年3月の来日公演が今からとっても待ち遠しい! さて、次回は junne さん(id:junne)、お願いしまーす。junne さんはサイトを始めたのがたしか同じ頃だったはず、1998年なので思えば5年以上、5年となるとやっぱり長い。ずっと前からファンだったモモさんからバトンがまわってきて、次は junne さんにまわすことができて、なんだかこの一連の流れがとても嬉しいです。それでは、お退屈さまでした。