小津・古本屋・演劇博物館

foujita2003-10-25


軽い所用があったので早起きしてひさしぶりに実家へ。小津安二郎の映画をいくつかビデオに録ってあると知って狂喜乱舞。『彼岸花』と『秋刀魚の味』と『小早川家の秋』をピンポイント式に再生、いずれも何度も見ている映画なので好きな箇所を振り返ろうと思ったのだったが、結局は「ここの着物!」「ここのインテリア!」といった感じに何度も一時停止したりなんかして、母と一緒に大騒ぎ。『彼岸花』で田中絹代がラジオで長唄を聞いていた直後の、佐分利信中村伸郎がゴルフ場の休憩室にいるシーンで低音量で流れているのがシューベルト即興曲集のロザムンデ変奏曲だったことに気づいたりもした。

予定より大幅に遅れて実家を出て、高田馬場へ。ひさしぶりに早稲田の古本屋さんを流そうと曇り空の下を競歩。平野書店と三楽書房に思いっきり長居。何も買わなかったけどとてもよかった。安藤書店で戦前の雑誌「舞台」を見かけて表紙に惹かれて手に取ってみると、戸板康二の「歌舞伎の焦点」という文章が載っている。単行本で読んだ記憶のある文章だったけど、ふと手にとった雑誌で戸板康二に、しかも昭和12年戸板康二に遭遇できるなんて! と大喜び。全然関係ないけど、「舞台」を手にとったその瞬間、店内のラジオでスガシカオの「愛について」が流れて猛烈に懐かしかった。シカオー。

せっかくここまで来たので演劇博物館を見物していこうと突然思いついた。と、ほんの思いつきで来ただけだったというのに「江戸・明治の歌舞伎」という展覧会に思いっきり長居。室内では歌右衛門のビデオが流れているので、歌右衛門の声を背後に数々の芝居絵を見ることになって、それがもうたまらなくよかった。芝居絵を眺めるのがもういちいち面白い。「忠臣蔵」の五段目、山崎街道のところの、四代目團蔵が与市兵衛と定九郎を早変わりしている絵の構図にワクワク。定九郎の着物は仲蔵型の黒紋付羽二重ではなく縞模様になっているという説明が添えてあって、四代目團蔵と初代仲蔵と聞くと、頭のなかは一気に圓生の「淀五郎」だった。

今日は本当は鶴巻町のラ・ガルリ・デ・ナカムラに出かけるつもりでいたのだったが、古本屋と演博のおかげで時間がなくなってしまって断念。

購入本

  • 雑誌「舞台」1937年7月号

岡本綺堂監修の演劇雑誌。編集後記では、戸板康二は「三田派の新進評論家。劇壇への新しい登場である。」と紹介されていた。あとで確認すると「三田文学」以外の雑誌ではこれが初登場のようだ。

同じく安藤書店にて。新刊で買い損ねていたのでわーいと買った。

早稲田大学演劇博物館の編集。発売になった頃、教文館で立ち読みして「これは素晴らしい!」と思ったのだったが、買い損ねていたので演博の売店で購入。これだけたくさんの素晴らしい図版を見ることができてこの値段、かなりお買得のような気がする。買って損はないというよりも買わないと損だという感じ。黙阿弥自筆の『島鵆月白浪』の下絵に大感激、『風船乗』の図版もあって、岩波の新古典文学大系の黙阿弥集でこれらの脚本とその注釈を熟読したときの興奮が胸に甦る。……などと、図版ばかり見ていないでちゃんと解説文を読んで勉強しないと。芝居絵でたどる歌舞伎とその周囲の歴史。