竹橋の美術館と神保町

竹橋の東京国立近代美術館と工芸館へ出かけた。そのあと夕暮れまで神保町。二週連続でよいお天気の日曜日でよかった。

ひさしぶりにゆっくりと常設展示を練り歩いた。いつもここに来ると見られる好きな絵と初めて見る絵とがいつ来てもいい具合に混じっている。岸田劉生関根正二と村山槐多のところでいつもハッと立ちすくみ、柳瀬正夢松本竣介にもいつも凝視。今回松本竣介は《並木道》という絵、御茶ノ水の路上を描いた青みがかった暗い色調にスーッとなった。藤田嗣治の小特集があったのも嬉しかった。戦争画の展示のところで洲之内徹の文章を思い出した。というか、この美術館に来ると、いつもまっさきに洲之内徹を思い出す。

熊谷守一を見られたのも嬉しく、織田一磨の小特集もとてもよかった。大正初期を描いた《東京風景》と昭和初期の《画集銀座》。十二階や待乳山を描いた絵を見てると久保田万太郎の小説のことがパッと心に浮かんでくる。待乳山では通りがかりの女の人の着物姿がさりげなくよかった。縞の着物に素敵な帯、万太郎小説に出てきそうな玄人筋の「小股の切れ上がった」女のひとという趣き。神楽坂を描いた絵がとても素敵で、夜の暗闇とところどころから漏れる明かりの解け具合が実にいい。時代は違うが『大東京繁昌記』の神楽坂の「神楽坂気分」という言葉が鮮やかに描き出されている。《画集銀座》の方は戸板康二の少年時代の銀座だなあと千疋屋歌舞伎座の遠景を描いた画を見るといつも思う。

とかなんとか、どうも本のことばかり思ってしまった今日の展覧会だった。

生活と調和した、生活と密着した工芸品ということで、ここに来るといつも展示物を通して感じる「生活」がいい。うっすらとただよう木の匂いがとても気分よく、それぞれと質感とフォルムを眺めるのも工芸館の建物内部をめぐるのもいつも格別の時間だ。谷新一郎さんの「編み物椅子」というのが気に入ってしまって、座れる椅子コーナーに置いてあったので、しばし座ってみた。


購入本


東京堂で文庫本数冊買ったあと、書泉で植草甚一を買った。東京堂で探したけどなかった(と思う)。売り切れていたのかな。

たしか坪内祐三の本で初めて存在を知った「1976年日記」、たまに古本屋で『植草甚一スクラップブック』を買って月報が付いていると「ワオ!」と胸を躍らせていた手書き日記をこうして通して読めてしまうなんて! なんていうか、もう夢のようだとしか言い様がない。junne さん(id:junne)の日記でこの本の発売を知ったという展開もなんだかいかにもでよかった。

買ってさっそく断続的に読み始めてもう止まらない。行き届いた編集ぶりがまた見事なこと。古本とか東京とかの描写はもちろんだけども文房具とかその他いろいろなことが読んでて楽しくてしょうがない。東京のバスはいまでも揺れは激しいのかな。