山中貞雄作品集

ちょうど8時に目が覚めた。今朝はツンと空気が冷たい。寝床から手を伸ばしてラジオのスイッチを押して、皆川達夫さんの「音楽の泉」を聴いた。今日はビーバーのレクイエム、レオンハルトの演奏。バッハよりも40年ほど先の世代にあたるチェコ生まれでザルツブルクで勤めていたというビーバーの音楽を聴いたのは初めてだった。レオンハルトによる指揮が素晴らしく、合唱・独唱にぼーっと耳を傾けて、すっかりよい心持ちになった。ちょいと寒い日に布団でぬくぬくと音楽を聴くのは至上の快楽。が、ドラマチックなキリエがよいなあと思っているうちにいつのまにか眠ってしまって、ラジオもいつのまにか消してしまって、次に目が覚めたのは11時過ぎ、おっとこうしてはいられないといそいそと選挙の投票に出かけた。

出しっ放しだった『全日記小津安二郎』をもとあった棚に戻した。ふとその横にある、『山中貞雄作品集』が目に入って、この本のページを繰るのは3年ぶりくらいかもとなんとはなしに開いてみると、『中村仲蔵』なるシナリオがあるのでびっくり。山中貞雄によるこの脚本、映画化はされなかったとのこと。それにしても、山中貞雄に「中村仲蔵」なる作品があったなんて! さっそく読んでみると、仲蔵が定九郎役のヒントを得る浪人、喧嘩をしたくてたまらない浪人がいて、仲蔵の向いに住む男がいて、彼は仲蔵の恋敵の用心棒をしていて、仲蔵には生き別れた父と妹がいて……といった人物の交錯が面白かった。

山中貞雄作品集』、9500円もするこの本、よく買ったなあと思う。1999年にとある映画館の山中貞雄特集で3本の映画を見て、胸にうずまくパッションを抑えることができず衝動買いしたのだった。「人間がばかだけに、ものの感じ方が激しいですな」(←志ん朝『佃祭』より)しかし、今回みたいなことがあるから、本というものは買っておいてあながち悪いものでもない。調子に乗って、石神井書林の目録で見つけたある高い本を申込むことに決めた。