内田水中亭の双雅房本

先週ふいに、伊勢丹の古書展で散財したお店の古書目録が届いた。どれどれとさっそく眺めてびっくり、内田誠の著書2冊が今まで見たどこよりも安い値段で出ていたのだった。

この古本屋さんの目録は初めてだったけれども、他にも興奮箇所が多々あって、とりわけ、「鴎外特輯 冬夏9号 串田孫一戸板康二 昭16」25000円に大興奮! 2500円だったら買っていたのであるが……。それから、「新風土 小山書店刊 島崎蓊助編 全67冊揃 昭和13年6月(創刊)〜昭和19年3月(7巻3号終巻)」250000円にもびっくり! いつも出かけている大学図書館で買ってくれないものかしらと勝手なことを思ってみたり。今まで「新風土」といえば野田宇太郎のことしか知らなかったから、急に島崎蓊助のことが気になった。

備忘録:『島崎蓊助自伝 父・藤村への抵抗と回帰』(平凡社、2002年)を要チェック!

さて、内田誠2册は無事に買うことができた。うるわしの双雅房本。双雅房の主・岩本和三郎は、斎藤昌三とともに書物展望社に創立に参加したものの、結局斎藤昌三と袂を分かって双雅房を始めることとなった。このところ、山口昌男の本にハマっていて書物展望のことも登場していたから、なにかとタイミングがよかった。あと、先日、洲之内徹の新刊で胸を躍らせた長谷川りん二郎、彼の「巴里祭」というタイトルの絵画が『浅黄裏』にカラー図版として挿入されていたりと、いろいろなことがつながって、さらに胸が躍るのだった。

以前、京橋図書館で借りた『緑地帯』と同じように、時折挿入される写真がとても素敵だった。内田誠には写真道楽があってライカで嬉々と撮影していたようだ。『喫茶卓』の方には源之助の写真があった。

《帰りがけに庭に立ってもらった。ライカのレンズをむけると、とたんに源之助は懸け声でもかけられたように胸を幾分かそらした。みると雑談をしている時なんぞとはまるでちがう引緊まった顔つきになっていて、きりっと威のあるその眼は、絵に画いてあるより外見たこともないように美しかった。》

源之助と写真というと、折口信夫の、源之助のことを記した文章の冒頭の、写真に撮られるのが上手だった源之助、のくだりがとても印象的で、源之助の写真を見るといつもこのことを思い出す。それから、上記の内田誠の文章の冒頭には、源之助の家の庭の「雀堂」がチラリと登場している。久保田万太郎が源之助の追悼文で、この雀堂のことを書いていたから「あっ」と思った。万太郎は古川ロッパと源之助の家を訪れた日のことを回想していて、これを読んだあと、ロッパ日記でそのくだりを探して悦に入ったりしていた。「雀堂」は春の季語、源之助が死んだのは春だったのかな。