展覧会の絵

理想的な休日の過ごし方のひとつに、竹橋の東京国立近代美術館に出かけて、そのあと神保町でのんびり、というのがある。今日はひさびさにそんな日曜日。近代美術館は、工芸館もヨハネス・イッテンもおさぼりして、常設展示だけをのんびりとめぐった。神保町では本屋さんもそこそこに、喫茶店でのんびりと過ごして、今日はコーヒーがしみじみおいしかった。日没と同時に帰宅して、夜は部屋でのんびり。シューベルトの《冬の旅》を MD に落しつつ、本棚の整理。


明け方に目が覚めてしまって、しばしイヤホンで音楽聴き。適当に棚をあさっていたら、ガーディナー指揮、ベートーヴェン交響曲3番&4番のディスクが出てきた。ひさびさに《英雄》を聴いて、朝っぱらから大興奮。気が向いて、音楽之友社の解説本を参照しつつ聴いてみたら、さらに大興奮。《英雄》のフィナーレ、いままで何気なく聴きつつも凄いなあと震えていたものだったけれども、この凄さというのは、そうか、変奏曲とフーガとソナタ形式とが組み合わさっているところにあったのか! と、何度も聴き直してハマってしまった。で、第9の構成のことにも思いが及んで、これまたひさびさに第3楽章までを通して聴いた。吉田秀和さんが、第9の第1楽章のコーダから歌舞伎の忠臣蔵の四段目の城明け渡しを連想していたことをふと思い出した。

というようなことをしているうちに、NHKラジオ「音楽の泉」の時間になった。今週は無事聴くことができて、やれ嬉しや。本日の曲目は、ムソルグスキー展覧会の絵》、ラヴェル編曲の管弦楽版、演奏はゲルギエフ指揮ウィーンフィル。この曲も今まで何気なく聴いていたけれども、今回あらためて皆川達夫さんの解説とともに聴き直すことで、この曲の作曲された時代が、先月夢中になって読んだ『アンナ・カレーニナ』と同時代だということに思いを馳せることができたことが大収穫だった。プーシキンのオペラ化、ムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》を近いうちに聴きたいものだなあとふつふつと思った。それにしても、19世紀ロシアのなんと魅惑的なこと。今年2004年はチェーホフ没後100年。


ここの美術館は好きな絵がたくさんあって、来るたびにたのしい。好きな絵をひさしぶりに見たり、新たに好きな絵に出会えたり、小特集がいい感じだったり。早起きのせいで午後は眠くて、来る前は今日はどうかなと思っていたけれども、いざ来てみると、やっぱりたのしくて、会場の混み具合もちょうどよくて、のんびりとめぐってしみじみたのしかった。

今日とりわけ嬉しかったのが、《近代日本の静物画》と題された小特集。大好きな岸田劉生の《壷の上に林檎が載って在る》を、静物画の特集のひとつとしてあらためて見直すのが格別だった。この絵を見ているときの、絵のなかへスーッと融和していくような感覚がいつもたまらない。長谷川利行の《ガイコツと絵のある静物》や小出楢重のお馴染みの野菜の絵も、いつ見ても好きな絵。それから、吉原治良の《書斎》の、抽象と具象の混じり具合が絶妙だった。

藤田嗣治、野田英夫長谷川利行《タンク街道》、国吉康雄のあたりの一角に堪能、速水御舟の椿を描いた図巻はガラスケース越しに凝視してうっとり、鏑木清方円朝像にひさびさに対面して長居、リアリズムと対極にある画面構成の妙が映画を見ている気分の植田正治の写真はいつ見ても面白い。靉光、麻生三郎、松本竣介の一角ではやっぱりどうしても洲之内徹を思い出し、野見山暁治の《ブラッセルの女》がとても素敵で、小倉遊亀岡鹿之助、斉藤義重もいつどの絵を見ても必ずそこはかとなくいい気分、……などなど、絵を見るってたのしいなあと素朴なよろこびにひたりつつ、東京国立近代美術館の常設展示を満喫した日曜日の午後だった。