京橋図書館と奥村書店

今日も気分がスカッとしていてたいへん機嫌がいい。日没後、心持ちよく築地まで早歩き、京橋図書館に行って本を返した。先週借りて昨日読み終わったばかりの都筑道夫の『推理作家の出来るまで』下巻はもう少し手元に置いておくことに。上巻だけ先に借りたので気付くのが遅れたけれども、下巻には人名索引のみならず書名、映画など各種索引が大充実、年譜や著書リストも完備してあって、日下三蔵さんの仕事はいつもすばらしい。上巻だけ先に借りたおかげで、読書中に戸板康二発見! となってよかったのだった。

都筑道夫は再三にわたって影響を受けた好きな作家として、岡本綺堂久生十蘭内田百間といった名前を挙げていて、それはそのまま戸板さんの好きな作家となっている。『推理作家の出来るまで』を読み始めてすぐに、この本、戸板さんが読んだらいかにも喜びそう、と漠然と思ったのだけれども、そのゆえんは、東京山の手、芝居のみならず、もっと根本的なもの、なんというか同じような精神風土があったからなのだということがよくわかった。いろいろとつながっているのだ。

下巻は、都筑道夫ブックガイドとしても読める感じ、これから読みたい本をいろいろメモしておきたい。ほかにも、綺堂の半七捕物帳をもっとじっくりと読みたいものだと思ったり、読まずに大事にとってある久生十蘭の捕物帳もとっても気になるところだし、都筑道夫が言うところの「フランスの半七捕物帳」、ジョルジュ・シムノンのメグレシリーズにもひどくムズムズ……。読みたい本が次々と。それにしても、都筑道夫の『推理作家の出来るまで』はすばらしい本だった。これを刊行してくれたフリースタイルに大感謝。

今日図書館で借りたのは、雑誌「すばる」2004年2月号。国学院大学における折口信夫五十年祭記念講演会が収録されていることを知って予約していたもの。「大阪びと 釈迢空」というタイトルの富岡多恵子さんの講演をまっさきに読んで、さっそく面白かった。大阪女のしゃべりのリズムが響いていたなかで育った折口の小説の語り口のこと。昭和25年12月につくった歌についての馬場あき子さんの講演も「戦後の折口」というタイトルで見逃せないものがあり、丸谷才一の講演もありがたく、去年9月の折口没後五十年以来、つぎつぎと折口について刺激を受けている。

京橋図書館に向かう途中、奥村書店をのぞいた。鏑木清方の『築地川』という本があって、ひたすらうっとりだった。著者自装のうるわしの双雅房本。やはりそれなりの値段がついていたけれども、前々から気になっていたこの本、初めて手にとって見ることができて嬉しかった。と、鏑木清方にうっとりしたあと、新刊で見て以来ずっと買い損ねていた、矢野誠一さんの『荷風の誤植』を見つけて、わーいと買った。この本、奥村書店で買うのがいかにも似つかわしい。今夜からしばらくこの本が就寝前の1冊、いわゆる「寝酒本」。