内田光子さんとロンドン交響楽団

今日はひさしぶりのサントリーホール内田光子さん来日公演初日。昨夜は今日に備えて早寝をして、今朝は喫茶店でコーヒーを飲んで気を引き締めた。それにしても、しばらく内田光子さんの演奏を生で聴く日が続くなんて、夢のようだとしか他に言いようがない。無事に当日を迎えることができて本当によかった。今日は千代田線の赤坂駅から歩いてホールに向かった。このゆるやかな坂道は久保田万太郎の終の住処があった場所、肩に羽根が生えて地上30センチ上をパタパタと飛んでいるような心境でアークヒルズに向かった。とにかく嬉しくてしょうがない。何年かに一度内田光子さんを聴く機会がめぐってくると思うだけで、人生捨てたものではないと心底思う。

開演直前、客席にフラッシュがピカピカいつまでも光っていて何ごとかと思っていたら、皇室の人が臨席していたのだった。近眼なのでよく見えず、きもの姿の美智子皇后がかろうじて見えた。そのきらきら光るフラッシュが今まさに始まろうとしている演奏会への心の高まりと連動していて、胸がいっぱいだった。最後のアンコールのあと客席が退場する皇室の方に向かって拍手をしているとき、ふいに前の通路を見たら、目の前を内田光子さんが通ってびっくりだった。

コンサートそのものもひさしぶりだけれども、オーケストラの演奏会はもっとひさしぶりで、ひさびさに浴びるように音楽に思う存分ひたって、乾いた喉が潤った気分。ああ、音楽ってすばらしい! と身体全体で思った。今日聴いた内田光子さんのモーツァルト、K.482 の第3楽章は一生忘れられないようなすごい音楽だった。なんだかもう信じられないくらい素晴らしかった。ロンドン交響楽団は初めてだったけれども、コクのある一糸乱れぬ響きが重厚感たっぷりでだいぶ好み、管弦楽のよろこび満喫のアンサンブルだった。初めて聴いたシベリウスの《エン・サガ》は同じテーマが何度か繰り返されるときのヴィオラの合奏のところでしみじみ身体全体でいい気分で、そのテーマが弦楽器のなかで何度か変化するところの響きがとてもよくて、明日のシベリウス交響曲5番がますますたのしみになってきた。あんまりいいので、しばらくシベリウスを追求することを決意。ベートーヴェンの8番はもともと大好きな曲、実にかっこいい大人の音楽だと思う。ここでもオーケストラのコクのあるアンサンブルを大満喫。身体の奥まで響いてくる。アンコールも素敵で、このところプーシキン熱が再燃中の身としては、《オネーギン》が嬉しかった。さて、明日もサントリーホールだ。早く寝よう。