ささまショッピング

平日夕刻の新宿伊勢丹行きが好きだ! と、丸の内線にとび乗って新宿3丁目で下車。が、ずいぶん張り切っていたのに買い物的にも下見的にもだいぶ不発。化粧品ひとつ買って、外に出てみると日が暮れて空気も冷えている。タワーレコードに行こうかそれともバーニーズかしらとしばし悩んだところで、突如、ここまで来てしまったらやはり! と、モクモクと荻窪ささま書店のことを思い出して再び丸ノ内線に乗り込んだ。荻窪にたどり着いて、早足でささま書店へ。ひさしぶりにやって来ると、やはりおそるべしささま書店。欲しい本がありすぎる。1000円以下に限定して買い物したけれども、それでもまだ欲しい本があるので本当に困ってしまったッ。と、ひさしぶりのささま書店ですっかりハイだった。買い過ぎ。

購入本

『推理作家の出来るまで』を読んで、次なる都筑道夫は『やぶにらみの時計』にしようと思っていたのだったが、なかなかお目にかかれないでいる。「BOOKISH」の落語本特集を見ていたら「なめくじ長家捕物さわぎ」シリーズにもたいへんそそられるし、最近光文社文庫で出ている諸々の本にもムズムズで気ばかりがせいて仕方がない。というふうに悩み中のところ、ささま書店の文庫コーナーにずらっと都筑道夫が並んでいたので大興奮だった。1冊200円、どれにいたしましょう! と大いに悩むものの、まずは解説者目当てで選んでしまおうと思いついた。上から順番に、田中小実昌植草甚一色川武大三國一朗の解説文庫本を今日のところは選出。

これも『推理作家の出来るまで』を読んで気になっていたもの。吉原のソープ嬢が主人公の安楽椅子探偵シリーズ、帰りの電車でさっそく読み始めてみた。『退職刑事』と似ているといえば似ている。シルビアの一人称で書かれていて、その視点がドライというのかリアルというのか、しみじみ見事で、ますます都筑道夫その人に好感を抱く。吉原が舞台であるところからくる江戸東京への蘊蓄が随所に盛り込まれているのも実にたのしくて、小沢昭一の『ぼくの浅草案内』をめくったときのことを思い出した。

  • 都筑道夫『名探偵もどき』(文春文庫、1983年)

都筑道夫による名探偵のパロディで、まあ、面白そう! 和田誠の挿絵とともに、ヴェルベットもどき、ポアロもどき、マーロウもどき……という目次の字面を見て、どんなふうだか猛烈に読みたくなった。

と、『名探偵もどき』の「メグレもどき」というタイトルを見て、『推理作家の出来るまで』でがぜん気になったジョルジュ・シムノンのことを思い出して、海外ミステリの棚へと横歩きしてみると、シムノンもだいぶ並んでいるので大喜び、ここでも解説者目当てで選ぶことにしてチェックしてみると、さっそく『メグレと殺人者たち』が当の都筑道夫の解説なのでさらに大喜び。もう1冊の『メグレと口の固い証人たち』の解説は小泉喜美子

最後はちょっとだけ高めの文庫本2冊。先日買い損ねた川端康成文芸時評があるので狂喜。これもさっそくめくってさっそく面白い。水上瀧太郎の小説に対する文章にうなずくことしきり。旺文社文庫安藤鶴夫は読みたい本がたくさんあるけれども、値段が高いことが多くてなかなか機会がめぐってこない。今回はここまで文庫本をたくさん手にとっていてその勢いで安藤鶴夫もめでたく購入できた。店頭で目次を見ただけで読みたくてたまらない感じだった。帰宅後さっそくめくってみたら、十二月文庫に出かけた折に立ち寄って以来、そこはかとなくお気に入りだった池ノ上の由縁堂書店の店主さんのことが出ていた。たいへんな歌舞伎、落語通とのこと。戸板康二の『舞台歳時記』の書評もあり、安藤鶴夫と精興社とのつながりのことも今回初めて知った。


文庫本以外でも1000円以下にしぼってみても欲しい本が何冊もあって選ぶのに難儀だった。結局選んだ2冊はいつも古本屋でもっとも喜んで買っている部類の本となった。

解題を書いているのは戸板康二。これは前々からとっても気になっていた本だった。築地小劇場の全公演を見てきた人による公演記録で、いざめくってみると、すごい本だった。続篇が昭和56年に出版されているので、いずれ図書館で見てみようと思う。

この本は今まで何度か古本屋で遭遇してきて、伊藤熹朔の装幀がそこはかとなく愛らしくて、ちょっと気になっていた本。久保田万太郎の単行本は安価で遭遇すると嬉しくて毎回買ってしまう。小説と戯曲それぞれ5篇ずつ収録。小説の冒頭のレイアウトが洒落ていて、久保田万太郎の根底にあるハイカラさと絶妙にマッチしていてとてもいい。戯曲の方は、冒頭に舞台蔵置図みたいのがあるのが嬉しい。と、伊藤熹朔と万太郎のコンビネーションが嬉しい1冊。戸板康二曰く、東京人の生粋の話し方を登場人物にさせている万太郎が唯一「生硬で訛りのある学生言葉のようなセリフを書いた」という、『カールブッセ』という戯曲も収録されている。この『カールブッセ』がかねがね大のお気に入りで、さっそく読み返した。