京橋図書館と奥村書店

待ちに待った予約してあった本の順番がまわってきたのと返却期限がとっくに過ぎている本を返し損ねていたのとで、しょうこりもなく今日も京橋図書館へ。しかし、テクテク歩いているうちに風雨は強くなる一方で、とんだ失策だった。が、戻るに戻れない。やっとの思いで図書館にたどり着いて無事に本を返して無事に本を借りた。

ずいぶんくたびれて全身の力が抜けてしまったので、しばらく図書館で一休みするとしようと思ったところで、先週、辛気くさく昔の本ばかり見ている日頃のわが身を反省し現代ジャーナリズム(?)に触れるように努めることを決意してひとまず眺めたレコ芸で、さっそく内田光子さんのインタヴュウ記事を見つけて大喜びだったことを思い出した。現代ジャーナリズムのようなものに触れるとまたなにかいいことがあるかもしれない。そうだ、今週は「演劇界」を見ようと雑誌コーナーへ行ってみると、仁左衛門の知盛が表紙の新しい号が出ていて、やれ嬉しや。

きちんと「演劇界」を読むのは何年ぶりだろう。閲覧机に座ってそろそろと繰ってみた。そしたら、芝居見物の記憶がとても鮮明だったところで読んだせいもあるだろうけれども、歌舞伎座の劇評が昼夜ともすばらしくおもしろくて、全身の力が抜けていたのが急にウキウキとなって、何度も読み返してさらにウキウキになって、なんだか感激。勢いに乗って未見の劇評も読んだ。御園座菊五郎劇団の黙阿弥『児雷也』がとっても面白そう。歌舞伎座での上演が待ち遠しい! などなど、すっかりテンションがあがって、外に出てみると、風雨はだいぶおさまって、ねっとりとぬるい空気。

「演劇界」の劇評のおかげで急に上機嫌。マロニエ通りを戻って、奥村書店に寄り道。本を買ったのが嬉しくて、そのまま喫茶店に寄り道して、読みさしの都筑道夫(むちゃくちゃ面白かった!)を読み終えたあと、ウキウキと買ったばかりの本をめくった。

購入本

六代目菊五郎折口信夫徳川夢声小林一三堀口大学などなど、著名人、財界人の家を写した写真にそれにまつわる挿話が添えられているオールカラーの本。数カ月前発行の「書評のメルマガ」に掲載のハマダ氏の読書日記(大傑作)でこの本の存在を知って以来ずっと気になっていたもの。奥村書店でふと見つけて「おお、これか」と立ち読み、なんとなく戸板康二の『ぜいたく列伝』サイドブックとしても読めそうな感覚で、猛烈に欲しくなって購入決定。

書評のメルマガ(No.140):http://www.aguni.com/hon/review/back/140.html

先週奥村書店で見つけて「おっ」となっていた本がこの2冊。その前の週に東京堂2階にて「叢書江戸文庫」シリーズをうっとりと眺めていたすぐあとで、わりと買いやすい値段で売っているを先週奥村書店で見つけたのだった。先週は見送ったものの、そのあとで思わぬところから浄瑠璃読みの意欲がさらにわいてくる事態に遭遇していて、満を持してという感じで今日買うこととなった。待ってみてよかったのかも。定価はわりかし高いものの古本屋だとだいたい1冊1500円くらいで売っている、ということがここ2、3日の古本屋行きで判明。徐々に揃えていきたいところ。

先日、さる日本の古いミステリを読んでいたところ、おや、もしやこのプロットは『本朝廿四孝』を踏襲しているのかしらッ、となると犯人はこやつということになるなあと急にひらめいてちょいと興奮だった。さらに読み進めていったら『本朝廿四孝』とは全然違っていてわたしの思いつきは単なる妄想だったのだけれども、古い長篇ミステリを読んで急に近松半二の浄瑠璃を類推するという展開にとてもワクワクで、戸板康二浄瑠璃推理小説を類推している文章を書いていることを思い出したりもした。と、さらに興にのって、3年前の文楽通し上演の折の『本朝廿四孝』上演プログラムを棚の奥の方からやっとのことで探してひもといてみることに。すると、当時いたく熱心に見物していたことが如実に伺える妙に微細にわたった自作の観劇メモも一緒に出てきてびっくりだった。歌舞伎や文楽を見るようになって3年くらいの当時が今思うと一番純粋に、芝居見物に熱中していたのかもしれないなあと遠い目になりつつ、観劇メモ片手に付録の床本を読んでみたら、これが実に面白かったのだった。プログラムの方をめくってみると、そこに掲載の文章がすばらしく面白くてさらに興奮、「複雑だが明晰」という並木宗輔にえらくそそられるなあと、絶好の、浄瑠璃への招待かつ誘惑となった。そんなこんなでこの一週間、ますます「叢書江戸文庫」が欲しくなるという成り行きとなった。こういうのは本当にたのしい。

で、さっそくコーヒー片手にページをめくって、まずは解題を熟読。さっそく豊竹座の方に一番の目当ての並木宗輔の作がいくつか収録されていて嬉しい。月報を読むと『ひばり山姫捨松』にそそえられたものの、先日『番町皿屋敷』を見て、来月の歌舞伎座は黙阿弥の『新皿屋敷』だ、「皿屋敷」つながりだてんで、まずは『播州皿屋舗』を読んでみることに決めた。と、さっそく読み始めてみたところ、さっそくとっても面白い。はじめの頃はぼやけていた人物配置やストーリーが読み進めるにつれてだんだん輪郭がはっきりしてくる快感とか、たまに遭遇する挿絵が嬉しかったりとか、子供のころ本を読むたのしみを覚えたまなしの頃のような純粋な本読みのたのしみがまずある。ならず者の兄としっかり者の妹がいて、親の昔の悪事の因果で兄がならず者になってしまったのかしら、という設定はそのまま『すし屋』だし、苧環が登場したりの小道具遣いもたのしく、なんといっても、時折クスクス笑ってしまうような描写が目白押しなのでページをめくる指が止まらなくなってくる感じ。面白いわー! と胸を躍らせていたら、ずいぶん遅い時間になってしまった。続きは明日にしようと外に出た嵐のあとの銀座の夜はあいかわらずねっとりとしていた。