夜ふけの音楽

お正月やら夏休みやらの休暇になると、期せずして夜更かしして音楽を聴く時間というのが訪れて、ひとりっきりで音楽への埋没するのがとても至福だったりする。日曜日の NHK ラジオ「音楽の泉」のプロコフィエフのことが心にべったりと貼り付いていて、手持ちのプロコフィエフを聴こうかしらと気まぐれにディスクを取り出したら、ハマってしまって音楽聴いて宵っ張りになってしまった。まず、取り出したのは、

  • アンネ・ゾフィ・ムター/リサイタル 2000(DG)

という、かねてからの愛聴盤。21世紀を迎える直前に、ムターは20世紀のヴァイオリン音楽を取り上げたプログラムをたずさえて演奏旅行をしていて、その折のリサイタルを収録したもの。時代順に、ウェーベルン《4つの作品》、レスピーギソナタプロコフィエフのソタナ第2番、ジョージ・クラム《4つの夜想曲》を演奏している。これがいたく秀逸な組み合わせで、ムターの才気にひたすら驚嘆で、20世紀に思いを馳せさせてくれるプログラムという知的よろこび(のようなもの)のみならず、ヴァイオリンという楽器の魅力そのものにも目を開かせてくれる曲ばかり。なんていう能書きは抜きにして、ここに収録されているプロコフィエフソナタがかねてから大好きだった。「音楽の泉」の余韻とともにあらためて聴いてみると、第二次大戦終結直前に作曲されたという時代背景がなんだか胸に迫るものがある。もとはフルートの曲だったのを、オイストラフの助力でヴァイオリンへと編曲という成立過程も、演奏家と作曲家の相互関係の系譜、のようなものを思い起させてくれて、とてもいい感じ。

名盤の誉れ高いディスクで、何年も前に DG の廉価盤で発売になったのを機に嬉々と購入したもの。たまにストラヴィンスキーの《ペトルーシュカ》からの3楽章を聴いてノリノリに、というくらいのつき合いだったのだけれども、3月下旬の内田光子さんのリサイタルを機に再びよく聴くようになって、ストラヴィンスキーのみならず、このごろ全編をよく聴くようになった。これもまた、演奏はもちろん、曲の構成も実に秀逸。と、4曲のなかの1曲としてしか今までプロコフィエフを聴いていなかったので、あらためてプロコフィエフだけを強化して聴いてみたら、またもや胸がいっぱいに。ここに収録されているのは、ピアノソナタ第7番、3曲ある《戦争ソナタ》の1曲で、先にムターのディスクで聴いたヴァイオリンソナタとほぼ同時代の作品。第二次大戦という時代背景を意識しつつも、プロコフィエフピアノ曲は聴いていて妙に快楽でかっこいい。作曲家の生涯ということを思って聴くと、なおのことこの曲がイキイキと心に浸透してくる。《戦争ソナタ》全3曲を聴いてみようかしらと思っているところ。

20世紀の音楽ということで思い出して、最後はこれ。第一次大戦という時代背景のもとに作曲されたドビュッシー最晩年の室内曲のソナタを3曲、フルートとヴィオラ、ハープのためのソナタチェロソナタ、ヴァイオリンソナタを収録している。といった曲の構成と廉価盤(1000円)という価格に惹かれて購入したのだったが、思っていた以上にお気に入りのディスクとなって現在にいたっている。大のお気に入りと言ってもいいかも。ラスキーヌ、ランパル、パスキエ、トルトゥリエらの奏者がとてもいい。ふと思い出して、安原顯編『私の好きなクラシック・レコード・ベスト3』をめくって、土屋恵一郎さんのページを開いてみたら、ラヴェルのピアノトリオについて《このエラートの初期の録音は、パスキエ兄弟とルセット・デカヴのピアノが絶妙だ。》というふうに書いてあった。そのディスク、ぜひとも聴いてみたい。と、手帳にメモ。