退屈読本と青春物語と小鳩豆楽

やっと早起きが復活して、朝から時間がたっぷり。ふと思い立って、本棚から佐藤春夫の『退屈読本』上巻を取り出してパラパラと読み返すうちに夢中になってしまった。この本を初めて開いたときは、冒頭でチェーホフのゴーリキイ宛書簡のことが登場して、さっそく胸が躍ってしょうがなかったことをよく覚えている。ひさしぶりに読み返して、高見順の「描写のうしろに寝ていられない」を思い出してニンマリ。岩波文庫の『日本近代文学評論選』のあとで『退屈読本』を手にすると、ますます『退屈読本』が輝きを放ってきて、丸谷才一の明晰な解説でさらにウキウキになった。小林秀雄の登場とともに昭和の文芸批評が始まる前の時代としての大正の批評という捉え方をしたのは今回が初めてかも。佐藤春夫の『退屈読本』はあちこち抜き書きしたい衝動にかられるくらいに面白い。「劇評が交友記と並ぶくらいに大事だった」という『退屈読本』の諸々の文章が書かれた大正という時代に思いが及ぶうちに、戸板康二のことを考えたりもする。

日没後、雨のなか京橋図書館へ向かってテクテク歩いた。「パンの会」がらみで盛り上がって、谷崎潤一郎全集の端本、『青春物語』が収録されている巻と野田宇太郎『パンの会』等々を借りて、森鴎外の「椋鳥通信」をちらっと読んでみたくなって全集を予約して帰宅。夜は部屋で谷崎の『青春物語』を読んでいるうちに寝る時間になった。窓の外から雨音がザーザー聞こえてくるなかで静かに本をめくって、とてもいい気分。

雨の夜の本読みは、焙じ茶とともに鳩のかたちの落雁を食べながら。鳩のかたちの落雁、黄金週間に鎌倉で買ってきてチビチビと食べていたのがとうとう最後の1つがなくなってしまった。ふと外装を見ると、なかに久保田万太郎の直筆の俳句が印刷してあって、あらまあと嬉しかった。俳句は、「銘菓小鳩に寄す」という前書きで「しばらくは花のふゞくにまかせけり」というもの。「鳩サブレー」の袋の俳句は毎回ニンマリだったけど、「小鳩豆楽」の方は今までずっと見逃していた。直筆の文字なのでよろこびもひとしお。うん、この俳句とこのお菓子、なかなかの取り合わせ。