月の輪書林の目録、ミステリと映画

foujita2004-05-28


先週末に、月の輪書林の目録が来週早々に届くそうだ、ということを教えていただいてからというのもの、ずっとソワソワしっぱなしだった。その3年ぶりの刊行となる月の輪書林の目録を一昨日無事に入手、入手してからというものずっと持ち歩いては何度も何度も繰っている。3年前の興奮を思って今回もさぞスゴいのだろうなあと予想というか覚悟をしていたのだったが、そんな予想の範疇を思いっきり越えていた。それにしてもスゴい。届いてからというもの、背筋がゾクゾクしっぱなし。中程に掲載の石川利光の昭和7年日記の抜粋では戸板康二と同世代の人物の東京日記だなあということをどうしても思ってしまって、後半に掲載の綱淵謙錠の日記ではチラッと戸板さんが登場して、わーいとなったりも。今日は早起きして喫茶店でコーヒーを飲みながら、注文する本の最終決断。結局何冊届くかな。

購入本

夜、電車に乗る前に酔いざましにちょいと散歩することになった。と、古本屋さんに足を踏み入れたら、小林信彦の『東京のロビンソン・クルーソー』と『東京のドン・キホーテ』が2冊並んでいてびっくり、一気に酔いが覚めた。でもでもいかにもな品揃えのこのお店のことだから、それなりの値段がついているのは確実でそれはとうてい買える値段ではないということもよーくわかっている、どれどれとチェックしてみると両方とも案の定の15000円という値段がついていた。『東京のロビンソン・クルーソー』は一度図書館で借りて読んだことがあるが、『東京のドン・キホーテ』を見たのは初めてだった。悪いとは思いつつも、ちょっとだけ立ち読みさせてもらおうと手にとると、後藤杜三著『わが久保田万太郎』(とても面白い)に関する文章があって「おっ」となったあと、「小説に現れる東京言葉」だったかな、そんなタイトルの文章を見つけて繰ってみると、漱石の『明暗』のあとに久保田万太郎の『樹蔭』のことが書いてあった。1976年発行の本にある小林信彦による万太郎に関する文章、こんなに嬉しいことはなかった。もう一度目次を眺めると、今度は岡本喜八の『殺人狂時代』に関する文章が目にとまった。

岡本喜八の『殺人狂時代』は去年、ラピュタ阿佐ヶ谷で見た。内容はほとんど覚えていないけれども、むちゃくちゃ面白くてむちゃくちゃかっこいい映画だったことだけはよく覚えていて、心にずっと刻まれてあった映画。高価な本をあんまり立ち読みしてはいけない(すでにだいぶ立ち読みしていたが)、これで最後にしようとページを繰ってみると、都筑道夫と一緒に試写会でこの映画を見た、という書き出しでワオ! となったあとで、岡本喜八の『殺人狂時代』の原作が都筑道夫の『なめくじに聞いてみろ』だとあって、「え〜!」とびっくり。同じく阿佐ヶ谷で見たことのある『100発100中』が都筑道夫の脚本であることは当時から知っていたけれども、『殺人狂時代』の原作が都筑だと知ったのは今回が初めて。『推理作家の出来るまで』に書いてあったのを見逃していたのかもしれなかったけれども、偶然立ち読みした小林信彦のレア本で初めて知った、というめぐりあわせがホクホクと嬉しくて、上機嫌で古本屋さんを後にして、電車に乗って帰宅。

……などと前置きが長くなってけれども、

実は、『なめくじに聞いてみろ』は、福永武彦の『加田伶太郎全集』や戸板康二の『小説江戸歌舞伎秘話』を復刊してくれたということでわたしの心にずっと刻まれていたシリーズ、扶桑社文庫の《昭和ミステリ秘宝》で出ている都筑道夫、ということで前々から目をつけていたのだった。小林信彦の『東京のドン・キホーテ』を立ち読みして、こうしてはいられないと、電車を降りたあと本屋さんに寄り道、無事に棚にあってよかったよかった。いざめくってみると、以前出ていた講談社文庫版所収の岡本喜八による解説がしっかりと再録されていて、わーいと大喜び。と、レジに向かう途中、なんとはなしにそのあたりの棚を眺めて、とりわけ創元推理文庫とハヤカワ文庫のそれぞれの復刊フェアの平台で次々と目にうつる帯の惹句がそれぞれいいなあなんて思いつつ視線を転ずると、ポケミスの新刊が目にとまった。『ピアニストを撃て』だなんてまあ! と猛烈な懐かしさでなんだか胸がキュン、帯にあった「ポケミス名画座」という文字にも心躍るものがあった。岡本喜八の『殺人狂時代』の仲代達矢トリュフォーの『ピアニストを撃て』のシャルル・アズナヴール、二人とも黒のタートルネックがよく似合う。ポケミスを買うのは何年ぶりだろう。思いもよらない展開で、映画とミステリつながりの買い物、こういうのっていいなアと、すっかり夏の夜という趣きの夜道をテクテクと家路に。