落語と古本

6月に入って『助六』を見終わってからというもの、どうにもこうにも頭痛がひどくて、これはしばらく続きそうだ、今週末に歌舞伎座に出かける予定が早くも頓挫か、などと思っていたのだったが、金曜日の午後になってみるとカラッと全快。単にまた怠け癖が出ただけだったのかも。いずれにせよ毎年必ず体調が悪くなる季節なので気をつけないといけない。

体調が悪いなかで低音量で聴く落語ディスクというのがいつも大好きで、今回は志ん朝さんの『三枚起請』と『お若伊之助』の入ったディスクに胸がいっぱいだった。それぞれ亡くなる1年前と半年前の録音。『お若伊之助』は初めて聴いたときはそんなには面白いと思わなかったのだけれども、そんなほかの落語とおんなじように、じっくりと何度も聴いてみるとしみじみいい。ここに登場する根岸は桜の花が満開、志ん朝さんのいくぶん枯淡となってきた語り口で聴くと、霞がかった感じでたまらない風情、頭痛のなかでもじんわりとよい感じに浸透してきて、志ん朝さんの語る根岸がとにかくもうたまらないものがあった。

購入本

頭痛が全快してやれ嬉しやと、古書展で注文している本があったので、小川町の古書会館に突進して、閉場10分前に到着した。注文していた本はあえなく落選。がっかりのようなお金がなくならなくてよかったのかもというような気持ちが入り交じりつつ、閉場間近の古書展をちょっとだけ眺めていて、さっそくタイミングよく読みたかった本が見つかった。

現在目下借り出し中の、小林信彦の『東京のロビンソン・クルーソー』を読んで、たまらなく読んでみたくなった本。『親しい友人たち』は小林信彦が編集者時代に依頼したショート・ショートが12編。単行本には明記していないが、12篇はその月ごとのカレンダーになっているとのこと。小林信彦山川方夫追悼の文章がとてもよかった。《彼より、アタマの回転の早い人、リコウな人、話の面白い人は、まだいるだろう。しかし、彼のように暖かい心と柔軟な理解力をもち、都会的神経と野暮なまでの生真面目さを両立させた親しい友人に出会うことは、私の生涯に、もう、あるまい。》