週末古本日記

foujita2004-06-30


先週末に立ち寄った古本屋さんでのお買い物メモ。

先月の所用の折に通りがかった古本屋さんでこの本を見つけて「おお!」と心の中で大いにどよめいた。戸板康二のエッセイに、学生時代に宇野浩二『大阪』を片手に灼熱の大阪の町を歩いた、というくだりがあったのを思い出したのだった。戸板さんが持っていたのと同じ本だと、パッと手にとってペラペラめくってみると、ふんだんに掲載されている鍋井克之の挿絵がなんとも愛らしくて、目次の感じも宇野浩二の文章もとてもよさそうだし、なんといっても本全体がとても洒落ている。一目見ただけでメロメロだった。装幀者の名前をチェックすると、なんと長谷川りん二郎! 戸板青年がめぐった1930年代の大阪、そのとき戸板さんの手にあった昭和11年発行の宇野浩二『大阪』は、のちに携わることになる明治製菓の PR 誌「スヰート」の表紙絵を描いてもいた長谷川りん二郎の装幀だったのだ。と、なにかと感激の1冊だった。感激のあまりすぐさま購入したいところだったけれども、少々値段が張ったので(2000円以上になるととたんに財布の紐がきつくなる)、1カ月後にまたここを通るのでそのときにまだ棚にあったら買うとしよう、と心に決めたのだった。当時(1ヵ月前)、かなり本気で7月の大阪の松竹座の海老蔵襲名興行の見物に出かけようかなと思っていて、となると、わたしも宇野浩二『大阪』を片手に灼熱の大阪へ行くことになるのかしらッということも思って、ウキウキだった。で、1ヵ月たってみると、松竹座行きは結局断念、さて宇野浩二の『大阪』は? と、くだんの古本屋さんに立ち寄ってみると、まだ棚にあって、やれ嬉しや、だった。嬉々と購入して、購入してからというもの、枕元に置いている。大阪に行くのは文楽の上演があるときがいいかなと今度は思っている。

これは別の古本屋さんでのお買い物。5月の歌舞伎座で『暫』と『勧進帳』を見てからというもの、岩波の新日本古典文学大系の『江戸歌舞伎集』を読み返したいものだとずっと思っている。何年か前に歌舞伎座で『御摂勧進帳』の上演があったときに深い考えもなく、図書館で『江戸歌舞伎集』を借りてみたら、詳細な注釈とともに脚本を読むのが思っていた以上にとても面白くて、なにかと鮮烈な体験だった。というのを、5月の歌舞伎座で急に鮮烈に思い出して、今度はぜひとも購入して、襲名披露見物の余韻とともにじっくりと読むとしようと心に決めたのだった。が、いつもの通りにセコい料簡を発揮してなかなか購入にはいたらず、古本屋さんに行くたびに値段をチェックして、「もう一声!」ということになってしまうのだった。先日も古本屋さんで新日本古典文学大系江戸歌舞伎集』を見つけた。今度は2000円だった。もういいかげんにこのへんで買うとするかなと手に取ろうとしたまさにそのとき、隣に並んでいた西鶴が目に入った。こっちには1000円の値札がついている。実はほんの数日前に、そろそろ井原西鶴を読みたいものだと図書館へ物色へ出かけたばかりだった。なんとタイミングのよいことだろうと、結局西鶴の方を手にとってしまった。そして、近くに並んでいた、筑摩の明治文学全集も目に入ってしまって、こっちは1冊数百円だ。前々から欲しかった、戸板康二編集の『明治史劇集』を手にした。

で、さっそく西鶴を読み始めたところで、何年も前からの懸案の西鶴読みがやっと実現してとっても嬉しい。西鶴のほかの巻も安く見つかるといいなと切に思う(どこまでもセコい)。『明治史劇集』は、三木竹二がらみでいろいろと盛りあがっていたなかで眺めていると、その目次が臨場感たっぷりだった。筑摩の明治文学全集は『根岸派文学集』が欲しいッとずっと思っている。『明治史劇集』を手にしてみると、坪内逍遥や黙阿弥の巻も欲しくなってくる。……などと、なにかと物欲が煮えたぎるのだったが、こういう全集の(安い)端本買いはいつも大好き。『江戸歌舞伎集』は次回にしようと思う。無事に棚にあるといいけれども。