ささま書店ショッピング

帰りは丸の内線に乗りこんで、のんびりと荻窪へ向かった。たのしみを分散させようと昨日はあえてささま書店には寄らずにいたのだった。荻窪にたどり着いて、意気揚揚と蒸し暑いなかをささま書店競歩。まずは、ぬるい風に吹かれながら店頭の100円コーナーを物色。文庫本を4冊引っこ抜いて、いざ店内へ。ひさしぶりに来てみると、微妙に棚の配置が変わっていて、進化しているささま書店! と、ふつふつと嬉しかった。そして、今回もものの見事に欲しい本が見つかって、打てば響くささま書店! とますます感激して、今日のお買い物はおしまい。1日ぬめっと蒸し暑くてずいぶんくたびれたので、しばし休息いたそうとドトールへ行き、いつまでもぼんやり。週明け早々力が出ない。買ったばかりの山内義雄の随筆集をよい気分で読みふけって、ちょっとだけスカッとしてきた。

夜はなんだか寝苦しそうな気配だったので、買ったばかりの浄瑠璃集より並木宗輔の『狭夜衣鴛鴦剣翅』を、軽い気持ちで読み始めてみたら、さっそくハマってしまって週明け早々すっかり宵っぱり。解説に、豊竹座時代の並木宗輔の頂点、とあって、『豊竹座浄瑠璃集』の第2巻所収分を読んだあとで読むというタイミングとなってちょうどよかったと思った。二段目に入るといよいよ師直登場、謡曲狂言の引用が散りばめてあるその修辞の美しさに陶然となった。急に謡曲をいろいろ読みたくなった。またお能見物に出かけてみるかな。註釈と一緒に本文を読んでいると、ほかの並木宗輔の作品に思いが及んで、ますますいろいろ読みたくなってくる。いずれ『一谷嫩軍記』を全段読みたいものだと、武智鉄二の「組討論」という文章のことを思い出したりも。その前に9月の文楽上演の『双蝶々曲輪日記』がとてもたのしみ。……などと、寝苦しい夜、じっとりと浄瑠璃を満喫。三段目はもっと精神集中して読まねばと、後日へ持ち越し。

購入本

先月「地下室の古書展」で入手した河盛好蔵著『回想の本棚』で紹介のあった本で、ぜひとも読んでみたいと図書館で借りようと思ったものの、講談社文芸文庫で出ていたことを知って、その発見を待とうと決めたところで、さっそく買うことができて嬉しかった。「現代日本のエッセイ」と冠している講談社文芸文庫には読みたい本・欲しい本がいっぱい。当の河盛好蔵の『河岸の古本屋』もその1冊。『狭き門』や『チボー家の人々』の訳者として知られる山内義雄であるが、随筆集は没後に編まれた『遠くにありて』1冊だけのようだ。山内義雄の散文は今回の『遠くにありて』よりも前に、「こつう豆本」で出ている『翻訳者の反省』で読んだことがあって、そのとき以来、山内義雄の名前を心に刻んでいたのだった。『飜譯者の反省』には、講談社文芸文庫で年譜作成を担当されている保昌正夫氏による添え書きがあって、年譜作成の合間に出会った『遠くにありて』未収の随筆を5篇集めたのが『翻訳者の反省』、というふうにあった。なので、2冊揃って嬉しい。

こういう古き翻訳者の、明治20年代生まれの文人の文章集というだけで大いにそそられてしまう。東京山の手育ちで暁星出身、永井荷風の『あめりか物語』でボードレールを知って開眼、上野の図書館上田敏の『海潮音』を写し取り、当の上田敏にも京大在学時にぎりぎり対面する機会を持ったといったような世代と、暁星在学時に、同級だった二人の俳優、築地小劇場の東屋三郎と新国劇の金井謹之助から教えてもらって、近松西鶴、紅葉、鏡花、饗場篁村、露伴、鴎外の翻訳といった書物に西洋文学と同時に親しんだという遍歴がかもしだすある種の文化圏のようなものに思いっきり共鳴で、今後ますますそんな本読みを真似したくなるし、そのあたりの出版史のようなものも追ってみたい。

山内義雄というと、月の輪書林の目録に、麻生三郎の雑誌「帖面」の山内義雄追悼号が出ていて、ずいぶん迷ったけど、結局申込はしなかった。3月に鎌倉の近代美術館で見た「帖面」の表紙のことを思い出して、その表紙のみならず「帖面」に名を連ねる人々のなんといい感じであることだろうと、あらためてうっとりだった。

今まで『義経千本桜』目当てに何度か図書館で借りてもいて、いつか入手したいものだと、かねてから念願の1冊だった。とは言うものの、新刊書店のみならずどこの古本屋でもわりかしよく目にする本なので買おうと思えばいつでも買える本ではある。購入までの軌跡を語ろうとすると、例によってセコい述懐が延々と続くことになるのだった。ずいぶん前に、通り道の古書市で新品同様が1000円で売っているのを見つけてわーいわーいとなったものの、細かいお金が全然なかったので(1050円の本を1万円札1枚で買う勇気は出なかった)、後日出直してみたら売れていてがっかりということがあった。一度1000円で売っているのを見てしまうと、この雪辱を晴らさんため1000円で見つかるまで買うわけにはいかぬッ、ということになる。実は一度さる古書展でも1000円で見つけているのだが、その日は100円と200円の本ばかりを買っていて、1000円の本がえらく高価に見えて手が出なかったということもあった。……などと書いている本人もうんざりというセコい遍歴を経て、めぐりめぐって3年目、ささま書店で新品同様が1000円で売っているのに遭遇! ということになった。待ちかねたわやい。この調子で、『近松浄瑠璃集 上下』『近松半二 江戸作者 浄瑠璃集』などなど、新日本古典文学大系の気になる巻をザクザクと発掘していきたい。