百店満点

foujita2004-07-08


東京かわら版」と並ぶ毎月のおたのしみ、「銀座百点」の7月号をめくっていたら、銀座百店会50周年記念出版の『百店満点』なる本の広告を目にして、ワオ! と興奮だった。「銀座百点」のアンソロジーというと、30周年記念の『銀座百点 撰集』(昭和60年発行)がかねてからのお気に入り。この本は、戸板康二の『句会で会った人』で知った本だったと思う。知ってわりとすぐに奥村書店で入手した。その『銀座百点 撰集』に続く、非売品の記念アンソロジー『百店満点』が出版されていたなんて! 嬉しいやらびっくりするやらで、刊行を知らせる広告には「非売品ですが多少残部があります」という但し書きとともに3500円という値段がついていた。広告の写真でさっそく、戸板さん登場の「銀座サロン」が収録されていることが伺えたことだし、そもそも「銀座百点」の記念アンソロジーというだけで迷わず欲しい! ということになって、さっそく問い合わせてみたら、まだ在庫があって、やれ嬉しや、だった。さっそく1冊お取り置きをお願いして、今日やっと取りに行くことができた。ブックファーストが入っているコアビルの8階にある編集部を訪れたのは、今回が初めてでそれだけでちょっとワクワクだった。直接買いに来ていただいた人に特別にお渡ししているんですよ、と、400号記念の「銀座百景」という冊子(本誌と同じサイズの4分冊の写真集が帙に入っている)も一緒にちょうだいして、大喜び。さっそく喫茶店に移動して、コーヒーを飲みながら、ホクホクと眺めることとなった。中身も見ずに3500円の本を買ってしまったけれども、『百店満点』、いざめくってみたら、まさしく百点満点の大満足の1冊だった。先週は堀切直人さんの『浅草』を買ったことだし、今月は東京本の当たり月なのかも。→ 「銀座百点」のサイト:http://www.hyakuten.or.jp/

購入本

  • 銀座百店会創立50年記念出版『百店満点 「銀座百点」50年』(平成16年5月28日発行)

B5 サイズで、カバーは風間完の絵が背景になっている。ページをめくるとさっそく見ることになる白黒図版が嬉しく(戸板さんは志賀直哉登場の座談会の写真で登場)、まんなかにはカラー図版も。「銀座百点」の約50年にわたる誌面より、エッセイ、忘年句会、連載記事抜粋というふうに、バランスよく収録。編集は豊田健次氏をはじめとする文春のOBが担当なさったとのことで、それがいかにもな、間然するところのない見事な編集ぶりだった。「銀座百点」ファンにとってはこんなに嬉しいことはない。と、「銀座百点」の魅力があますことなく詰まったぜいたくな1冊となっている。冒頭の特別寄稿の文章のあとに、エッセイが年代順に収録、その顔ぶれ、その文章にあらためてうっとり。

戸板康二は「父の銀座」という、かねてから大好きだった文章が収録されていて、何度も読んでいるのにまっさきに読んだ。久保田万太郎の文章は100号記念にあたってのエッセイで、昭和38年の死のわりと直前の文章だ。市電に乗って浅草から尾張町を通過して三田まで通っていた青年・万太郎、その車窓から尾張町の服部書店店頭の貼紙を見てパッと飛び下りて…、という明治39年5月のことが導入になっている、見事な文章だった。このあたりの時代の「三田文学」に至る流れ、「三田文学」からの流れにまつわるあれこれはいつも大好き。万太郎の次のページは「三田文学」の戦後の名編集長、山川方夫の文章で、「遺稿」となっていてあらためて胸が詰まった。その山川方夫江藤淳遠藤周作の鼎談もほかのページにある。話題はもちろん「三田文学」がらみで、ある文壇史の側面という様相を呈していて、この3人が全員とも鬼籍に入っていると思うとなおのこと感慨深いものがある。連載よみものの抜粋も実に秀逸で、初出誌が「銀座百点」の名著は数多い、その多くの名著に思いを馳せることができるような仕掛けになっている。向田邦子『父の詫び状』、和田誠『銀座界隈ドキドキの日々』、色川武大『なつかしい芸人たち』などなど。といった出版史の資料というだけでなく、あらたに読んで面白い文章も少なくなくて、過去にうっとりというだけでなくて、現在も脈々とその伝統が健在なのだから、嬉しいかぎり。『百店満点』をめくって、あらためて「銀座百点」的なものあれこれへの偏愛で胸がいっぱいになった。その中心にあるのはいつだって戸板康二なのだ。

閉館直前にかろうじて間に合った並木座の写真が猛烈に懐かしかった。と、わたしにとっても、早くもノスタルジーの町にもなっている銀座なのだった。25年記念の座談会には戸板さんがいなくて、御病気の真っ最中ということに気づいた。車谷弘の俳句が色ッぽい、句集の編集が実に巧い、とあるのをみて、車谷弘の句集が猛烈に欲しくなった。なんて、本読みの波及がいくらでもありそうな『百店満点』。