山名文夫展と京橋図書館

日没後、銀座7丁目までテクテク歩いて、HOUSE OF SHISEIDO で山名文夫展を見物。大正11年山名はプラトン社に図案家として採用されたのを皮切りに、1931年には資生堂入社、以後、日本工房などを渡り歩き華々しく活躍、というくだりを見て、以前とても面白く読んだ『モダニズム出版社の光芒 プラトン社の1920年代』という本のことを思い出して急遽、京橋図書館へ。

無事に目当ての本を手にとったあと、閉館時間までいろいろと物色。荻田清著『笑いの歌舞伎史』(ISBN:402259859X)の表紙にあしらってある耳鳥斎の絵がとってもキュート! と、たいそう気に入ってしまって、以来、心にべったりと貼り付いた。宮武外骨がいち早く世間に知らしめたとのことで、そのあたりのことを調べようと急に思い出したのだったが、あまりいい資料は見つからず。ちょっと関連するところでは、松平進著『上方浮世絵の再発見』(講談社、1999年)という本があった。嬉々と借り出してみると、たいへんすばらしい本。近いうちにぜひとも入手したい。

上機嫌に帰宅すると、東大仏文科・人物誌が顔を揃えている、辰野隆追悼座談会が掲載されている雑誌「心」(昭和40年2月号)を送っていただいて大感激。ミルクティを飲みながら、ソロリソロリとページを繰って、すっかりいい心持ち。小三治独演会で訪れた鎌倉で辰野隆鈴木信太郎の文庫本を買った10日後に読むことになったというのが、なにかと感慨深い。

新・読前読後(id:kanetaku:20041113)のことを思い出して、夜ふけ、刊行まなしに東京堂で嬉々と買ったものの読むことなくなんと5年が過ぎていた、出口裕弘著『辰野隆 日仏の円形広場』(ISBN:4104102024)を取り出して、明日早起きして喫茶店で読み始めるとしようと、机の上に置いた。寝床では、同じく何年も前に嬉々と買ったものの本文を読むことなく日々が過ぎていた、服部幸雄著『江戸の芝居絵を読む』(ISBN:4062066904)を繰った。まさしく『上方浮世絵の再発見』と対になりそうな本で、『上方浮世絵の再発見』を買うのがますますたのしみになってきた。


展覧会メモ

この展覧会での最大の収穫は、初めて資生堂時代の小村雪岱の仕事を少しだけどじっくりと見られたこと。去年12月、河野鷹思展の折に購入した『紙上のモダニズム 1920-30年代 日本のグラフィックデザイン』(ISBN:4897374820)の「松竹座と資生堂」という項目に、資生堂の意匠部の記載がある。日本初の鉄筋コンクリートの映画館として大阪の道頓堀に1923年に開場した「松竹座」の広告活動が1920年代の映画広告表現の定型となったこと、映画と同様に海外への憧れが表出しているのが化粧品という商品、資生堂の意匠部は福原信三が1916年に設置、小村雪岱も短期間だけど在籍していた。といったくだりに買ったときからウキウキだった。そもそも小村雪岱を知ったまなしに胸が躍ったことのうちのひとつが資生堂意匠部という経歴だった。展示されている小村雪岱はいずれも1921年の作品。矢部季の作品とともに小スペースで小村雪岱の展示を見て、周囲にはズラリと山名文夫、舞台が資生堂のギャラリーというのがあまりに見事だった。山名文夫展でありつつも、山名文夫だけにとどまらず、たとえば『モダニズム出版社の光芒』をすぐさま読み返したくなってしまうというような展覧会だった。ggg山名文夫展とはどういうふうにつながってゆくのか、河野鷹思展のちょうど1年後となる来月がたのしみだ。

購入本

  • 展覧会カタログ『山名文夫の世界 曲線のモダンガール』(2004年11月)

前回の師岡宏次展のときとおなじように、つい買ってしまった展覧会カタログ。500円の薄い冊子で、ファイルに綴じられるように穴がついている。これからも思わずカタログを買ってしまうような素敵な展覧会を HOUSE OF SHISEIDO で見られるといいなと思う。どんどん綴じていったとすると、何年かたってどんなファイルが出来上がるのかなと、そんなことを思うのもたのしい。