上野の休日

リニューアル後は初めての東京国立博物館。いつもの通り、本館の1階と2階の常設展示をのんびりとめぐってたいへん満喫。まずはたのしいのが陶器と漆器といった工芸品。このところ元禄歌舞伎に胸躍らせていたところだったので、歌舞伎と同時代の陶器類がひときわ嬉しかった。見物のたびにすごいなあと思う、尾形光琳とその弟・深省の、光琳が絵をつけて深省が銘款の角皿だけれども、隣りの説明書きの、元禄12年に京都の鳴滝に窯を開いたというくだりを見て、思い出づるは同時代の京都の歌舞伎。と、以前も東博の陶器コーナーを見ると、赤穂浪士と同時代だとか、いよいよ歌舞伎が進化とか思っていたものだったけれども、今日は以前に増して歌舞伎のことを思って、そんな見物が本当にもうなんてたのしいだろうと思った。特に伊万里! 元禄年間に入ると色が派手になっている。柿右衛門様式の色絵が確立したというその赤のなんと美しいことだろう。そして、いつもの通り、それよりも100年ほど前の備前唐津、薩摩、美濃の陶器の質感にも見とれて、いつまでも尽きなかった。

改装前は、陶器とほぼ同時に浮世絵や着物の展示を見ることができてそれがとてもよかったのだけれども、それらは2階へ移動していて、リニュウアル後は、陶器のあとは漆器、というふうになっている。その蒔絵の意匠に目をこらすのもいつもながらにたいへん至福。室町時代の蓮の模様の硯箱が好きだなあと思った。秀吉の死後に伊達政宗に渡ったという刀箱の豪華かつ斬新な意匠もまばゆいばかりにかっこいい。江戸に入ると蒔絵はさらに洗練化、源氏物語の冊子を収めたという石山寺の意匠が描かれている箱は18世紀江戸文化の時代。このあと「五十嵐派の蒔絵」という特集展示があり、前田家伝来の豪華な漆器が実にたのしかった。伊勢物語がモチーフになっていたり、などなど、蒔絵に見とれるのみならず、調律用の笛を収める箱、古今和歌集をしまう箱といった用途がいいなあと、工芸品を見るたびにその背後にある人々の生活文化のようなものがいいなあと思っていたものだったけれども、その典型的愉悦を味わった。

このあとは、たのしみだった「元禄時代忠臣蔵」特集! と、先ほど伊万里を見て思い出していた歌舞伎がらみのことにあらためて胸を躍らすひととき。「座敷芸忠臣蔵」とか「道化茶番忠臣蔵」といった、いかにも江戸文芸という感じの書物がしみじみよかった。季節柄、忠臣蔵関係の展示はここだけではなくて、2階にもばっちり用意されていて、「浮世絵と衣裳」なるコーナーがたいへんな至福だった。先ほど、陶器と並行して浮世絵や着物を見られる以前の展示を懐かしんでいたのだけれども、リニュウアル後は2階に「能と歌舞伎」というコーナーが常設されていて、そのあとに「浮世絵と衣裳」なる江戸文化が待っているという構成に再編成されているのだった。なんて粋なはからいだろう! と、大喜び。その常設コーナー「能と歌舞伎」は江戸末期の女狂言師・坂東三津江の歌舞伎衣裳の展示だった。これからどのように展示替えされてゆくのかがとてもたのしみで、折に触れ、東博見物をしたいものだと嬉しかった。

そして、「浮世絵と衣裳」がたいへんな至福で、もうたまらない感じだった。菱川師宣、鳥居清長の「秀鶴夜雨」は安永年間、写楽の三代目彦三郎の鷺坂左内は腰元重の井を連れてくるところ、などなど初っ端から興奮だったけど、さらなる大興奮が『仮名手本忠臣蔵』の各段の錦絵で、各段をそれそれに凝視してたいへん楽しかった。やっぱり忠臣蔵は元禄ではなくて浄瑠璃の方がずっと親しみがわく。国芳の四段目のユーモラスな筆致にワクワク、北尾政美の五段目の遠近法構図、手前に「親父殿ッ!」の定九郎、左に小さく猪、右に小さく勘平というのにもニンマリ、五段目は豊国のもあって、定九郎がちっとも男前じゃないのがいいなあ。広重の六段目は「猟人の女房がお駕籠でもあるめえ」のところ。どこか風景画ふうでとても面白い。国芳の七段目、八段目、などといちいち順を追って行くと収拾がつかなくなってしまうけれども、それにしてもたいへん面白かった! それから、宮川長春の風俗絵巻がとてもよくて、なんとも眼福。春信の「恋の矢文」もとっても眼福。いつまでも見ていたい感じ。やっぱり、江戸文化はいいなあとあらためて嬉しかった一間であった。


(以下は、あとで書き足し、できるといいなあ。たいへん堪能でした)


落語メモ