(『風ふたたび』に向けて、原作をちょいと読むとしようと図書館で借りた永井龍男作品集に埋没したのも格別だったし、なんといっても、『ジャンケン娘』と『風ふたたび』とで思いっきり「芝居」をしている龍岡晋を満喫!
……以下、あとで、追記、したい、と書いて、最近追記できたためしがないけど。)
この人とのつきあひは、戦後、ぼくが鎌倉にうつり住んだとき以来だから、ざつともう、十四五年になるが、一度も、まだ、ぼくは、この人の洋服を着たところを見たことがない。いつも和服の、それも一寸八分幅の各帯に、セルの黒い前かけ、白足袋といふこしらへで、どこへでも……国会へでも、総理官邸へでも平気で出入りすることの人ばかりをみてゐるからである。
そのたくましい押し出しに加へての、けいけいたるヒョウのごときその眼……は、和服よりも洋服の場合にあつて、より一層、そのかゞやきを増すであらうことは疑ひをいれないのだが、それでは、平和を愛してやまない小津安二郎監督の作品には、いまのやうに参加できないだらう。だつたら、それは、この人にとつての一大事である。……といふのも、この人の映画俳優たらんとするのこゝろざしは、 世間でおもつてるやうなナマやさしいものではなく、おそらく、この人のこれからの一生のうへにでも、深刻なひずみをあたへるものであらうことを、これ、また、ぼくは疑ひをいれない。
ところで、である。
さて、そこで "この人" とはだれか? 菅原通済、売春対策審議会々長のことである。
大学教授である父(三津田)の旅行中の急病をきっかけとして、離婚した香菜江(原)に二人の男が好意を寄せるが…。前年に黒澤『白痴』、小津『麦秋』、成瀬『めし』という名作に立て続けに出演し、女優としての盛りを迎えた原節子の主演作である。(チラシ紹介)
- 豊田四郎『花のれん』(昭和34年・宝塚映画)*5/ 東京国立近代美術館フィルムセンター《生誕百年特集 映画監督 豊田四郎》 *6
加東「亡くなった山茶花究さんによく言ってたんだけど、究さんはうまい役者だと思ったけど、それでもやっぱり一番うまいなと思ったのは、『花のれん』の初めの方に出てくる節季の取り立ての役、ほんの数カットだけど、このうまさ。」…「究さんは、ぞっとするような大阪商人を感じさせた。彼にはいろんな傑作があるだろうけど、それが一番印象に残っている。これはやっぱり役者が観たからだろうね。で、何かの時に、その話を究さんにしたのよ。そしたら『加東さん、いい事言うてくれた。それは役者でなければ判らない芝居だ』というの。『俺もあそこだけしきゃ出ないんだけど、あれには一所懸命懸けた、それを判ってくれるのはやっぱり役者だ』って言ってたけどね。……」
昭和初期の大阪。呉服屋をたたんで寄席の経営に乗り出した女(淡島)は、惚れた男(佐分利)への気持ちを必死に打ち消しながら、仕事一筋に生きて成功する。直木賞を受賞した山崎豊子の小説の映画化で、全篇にわたり淡島の堂々たる演技を味わうことができる。(チラシ紹介)