電車にのって本を売りにゆく

朝から力が出ず、起きてはみたけれどしばしぼんやり。こんなときぴったりなのがシューマンピアノ曲なのだと思い立って、ソナタ第1番と幻想曲が入っているポリーニのディスクを再生。見事なまでにいまの気分にマッチするなあとぼんやりと聴いているうちに出かける時間になり、覇気なく外出。

バタバタと特に言うことのないような1日が終わり、イソイソと帰宅。バックハウスのディスクで、ベートーヴェンソナタ第28番を再生する。アパッショナータとハンマークラヴィーアの華やかな2曲に挟まれている5曲のソナタはどれもこれも素敵だけど、人気投票をするとしたら第28番がダントツで1位になるような気がする。わたしもこの曲、大好き。なんてすばらしい音楽なのだろう! といつ聴いてもヒタヒタと感激なのだった。

おっと、いつまでも音楽を聴いている場合ではない。昨晩ピックアップした本をかたづけなくてはならぬ。ドナドナドナと電車にのって、本を売りにゆく。本屋さんに本を見ていただく間の待ち時間にしばし界隈を散歩。穏やかな秋の夜、あさっては十三夜。

ふらりと足を踏み入れた本屋さんで、山本容朗著『文人には食あり』が角川春樹事務所のグルメ文庫になって売っているのを発見。この本、新刊として刊行されたとき、戸板康二の項があるという理由だけで買っていて、戸板文献としてまだ売らずに書棚に収まっている。東京堂の仮店舗で買ったなあと思い出して懐かしい。もうすぐ神保町古本まつりというころで、まさしくちょうど3年前の今時分の季節。(と、山本容朗にしみじみするあまり、肝心の獅子文六の『わが食いしん坊』の方をチェックするのを忘れていたことにあとになって気づく。)山本容朗の直後に「本の雑誌」を立ち読みしたら、坪内祐三の読書日記に「戸板康二」の四文字が一応は登場しているのを発見。この短時間で、こじんまりした本屋さんで立て続けに「戸板康二」の四文字に遭遇するとは、こいつぁ縁起がいいわえと気分上々で古本屋さんへと戻る。

結果、持ちこんだ本は願ってもいない高値で狂喜乱舞。このお店に来るたびにいつか買いたいものだなあと眺めていた『小沼丹全集 補巻』8000円を購入し、わーいわーいとお店を出たあとはワインをグビグビ飲んで帰宅。残金で『風光る丘』を買うとしようといつまでも上機嫌。駅から自宅への細道では静かに金木犀が香っていた。本棚は(少しは)片づいたし、『小沼丹全集』はひとまず完本したし、ワインはとってもおいしかったしで、いいことづくめで心洗われた一夜だった。ざぶーん。